◆トレンチ内の汚染水対策

R:東電が海側のトレンチ、つまり配管や電気配線が通る地下トンネルにたくさん溜まっている高濃度汚染水を除去 する計画を立てていたのですが、結局、建屋からの汚染水流入が止められなかったことから、汚染水の完全除去を断念したという報道がありました。東電はセメ ントを流し込んで固めるという案も出していますが、これはうまくゆくのでしょうか。

小出: まず、2011年3月の段階ですでにトンネルの中に1万トンもの放射能汚染水が溜まっていました。私はその段階で、この汚染水をなんとかしないとどんどん 海へ流れていってしまう、その汚染水だけはとにかく巨大タンカーにでも移して1万トン分の処理をすべきだと発言をしました。しかしながら、結局、それを東 京電力も国もやらないままきてしまったのです。

そして1年程前になってようやく、トレンチの部分を遮断するという作業を始めました。どうやって遮断するかというと、トレンチの一部を凍らせて、原 子炉建屋、タービン建屋の側と地下のトンネルを隔離しようとしたのです。けれども、いくらやってもそこに氷の壁を造ることができないということで、彼らの 計画は失敗してしまいました。

これからは、今ご指摘いただいたように、コンクリートを流し込んで順番に汚染水を少しずつ抜き取っていくというやり方に変えると言っているのです が、恐らくそれしか私もないと思います。ただし、汲み出した汚染水というのは、強烈に放射能で汚れていますので、それを一体どうするのかということも、こ れから考えなければいけません。

◆唯一できることは「移染」

R:最後に、除染についてお聞きします。相変わらず、復興予算というところから除染作業に対して巨額の費用が注ぎ込まれていますが、どれぐらい効果をあげているのでしょうか。

小出:まず除染という言葉ですが、いわゆる漢字で書く除染は汚れを除くと書くのですね。しかし、汚れの正体は放 射性物質、つまり放射能です。放射能、放射性物質というのは、人間がどんなふうに手を加えても、消すことができないものです。言葉の本来の意味で言えば、 除染はできないのです。では、何ができるかというと、人々が生活している場の汚染をどこか別の場所に移すということであって、私はその汚れを移すという意 味で「移染」という言葉を使っています。できることは唯一それなのです。

しかし現在、放射能で汚れた場所に人々が捨てられてしまっている以上、その人たちの被曝量を減らすことは、何としてもやらなければいけないと思いま す。本来ならば、私は放射能で汚れた場所から人々を避難させる、移住させるということが一番いいと思いますし、国家の責任としてやるべきだと思います。国 家がそれをやらないで人々を汚染地帯に捨てている限りは、人々の生活範囲から汚れを移動させるということだけはやらなければいけません。

今、福島を中心にして1万4千平方キロメートルという広大な地域が、放射線管理区域に指定されなければいけないほどの汚染を受けているのです。放射 線管理区域というのは普通の人々は立ち入ることすら許されない。放射線作業従事者という、私のような特殊な人間でも、そこに立ち入ったら水を飲むことも許 されない。つまり、生活してはいけないという場所になってしまっています。家も汚れている、庭も汚れている、道路も学校も公園も田畑も林も森も山も汚れて いるのです。当然、そんな所を全て移染するなんていうことはできる道理がないのです。

でも、人々が毎日生活している家であるとか学校であるとか、そういう所だけは何としても移染しなければいけないと私は思います。あまり効果があるとは言えませんけれども、でもやらざるを得ないと思います。

 

「小出裕章さんに聞く 原発問題」まとめ

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