時速600キロを超えて世界最高速度更新という話題ばかりが先行するリニア新幹線。その安全性や環境への影響などを考える「リニア市民ネット・大阪」主催 の学習会が4月25日、大阪市港区の弁天町生涯学習センターで行われた。ジャーナリストの樫田秀樹さんが、リニア実験線周辺で起きている水枯れや残土など の問題を報告した。(矢野宏/新聞うずみ火)

大阪市で4月25日に開かれたリニア新幹線の環境影響に関する学集会には、関心を持つ多くの市民が参加した。環境破壊の現状を報告するジャーナリストの樫田秀樹さん(撮影・矢野宏)

大阪市で4月25日に開かれたリニア新幹線の環境影響に関する学集会には、関心を持つ多くの市民が参加した。環境破壊の現状を報告するジャーナリストの樫田秀樹さん(撮影・矢野宏)

◆ すでに起きている水枯れ、建設残土問題

リニア中央新幹線は、東京(品川)―名古屋間を40分で、大阪までを最速67分で結ぶ。JR東海は、2027年に品川―名古屋間を先行開業し、その 収益で5.5兆円の工事費を返済したあと、45年に大阪まで延伸する計画を立てている。だが、大阪市の橋下市長や関西財界は27年の大阪開業を求めてお り、自民党内でも「名古屋―大阪間の3 兆6000億円は国費で無利子融資すべき」と決議している。

リニア計画をめぐる問題がいろいろと懸念されているが、樫田さんは「問題はすでに起きている」と切り出した。
品川―名古屋までの全長286キロのうち86パーセントがトンネル。樫田さんは「1997年4月、山梨県でリニア実験線の建設が始まると、周辺の河川や沢の水が枯れ始めた」という。

99年9月、大月市朝日小沢地区の簡易水道の水源が枯れ、2008年に笛吹市御坂町で実験線の延伸工事が始まると、町の水源である「天川(てがわ)」の水が消えた。

「トンネル内で異常出水が起こり、JR東海は工事と水枯れの因果関係を認め、トンネル内の水を天川へ戻しています。だが、その補償期間は30年。31年目からは自治体が水を補給しなければならないのです」

実験線で排出された建設残土の問題も深刻だ。
JR東海は160立方メートル(東京ドーム1.5杯分)の残土で旧境川村(現・笛吹市境川町)の谷を埋めた。県の土地開発公社は宅地造成事業を進め、旧境 川村でも「リニアができれば駅もできる。首都圏から移り住んでくる人もいるだろう」と、幼稚園新設や下水道整備を進めたが、計画は頓挫した。「残土は地域 活性化どころか、豊かな自然を壊しただけだったのです」

◆ リニア沿線以外にも及ぶ環境破壊

一昨年9月、JR東海は、リニア沿線を環境アセスした結果を報告する「環境影響評価準備書」を公表した。

「静岡県では、リニアは県北部の南アルプスを11キロ通過するだけなので、多くの県民が無関心でした。ところが、そのトンネル工事で、JR東海は 『大井川の流量が毎秒2 トン減る』と準備書に記載していたのです。独自の水源を持たない7市2町は大井川に頼っており、その量も毎秒2トン。これらの自治体の首長は、JR東海に 環境保全を求めました。だが、JR東海にすれば、リニア沿線に位置しない7市2町は関係市町村ではないと、住民説明会も行っていません」

さらに、静岡県のトンネル工事で出る残土は360立方メートル。JR東海は大井川源流部の河川部6カ所と、標高2000メートルの山の上に置くことを準備書に記しているという。

「河川が汚濁したり、山の上から残土が崩落したりする可能性があるため、静岡県知事も市長も、JR東海に撤回を求めましたが、反映されていません」

このほか、樫田さんは、資材を運ぶトラックが1日1736台走ることになる長野県大鹿村と中川村の生活破壊、岐阜県東濃地域のウラン残土の問題などの危険性について報告した。

この日、100人を超える参加者があり、関心の高さを示した。東大阪市の多田一夫さんは「電磁波やウラン残土などの問題があるのに、JR東海からの説明は不十分。それらを報道しないマスコミにも問題がある」と話していた。

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