張成沢粛清・処刑を、北朝鮮の一般民衆はどのように受け取ったのだろうか。取材パートナーたちや中国に出国してきた北朝鮮ビジネスマンに訊いた。口は重かったが、大半の人が粛清に批判的、あるいは張成沢に同情的であったことは少し意外であった。いくつか紹介したい。一番多かったのは「叔父殺し」に対する道徳的な非難であった。(取材 ミンドルゥレ 整理 石丸次郎=リムジンガン編集部)
「粛清の嵐」吹かせる金正恩. 記事一覧

金正恩の現場指導に張(右から2人目)と共に同行した金慶姫(左から2人目)。肝臓疾患などが伝わっていたが数年前から激しく痩せた。張粛清の3ヶ月前の2013年9月を最後に公式の消息は途絶えたままだ。(朝鮮中央通信より引用)

金正恩の現場指導に張(右から2人目)と共に同行した金慶姫(左から2人目)。肝臓疾患などが伝わっていたが数年前から激しく痩せた。張粛清の3ヶ月前の2013年9月を最後に公式の消息は途絶えたままだ。(朝鮮中央通信より引用)

◆粛清に否定的な反応
「(張成沢は)金慶姫同志の夫ではないですか? あの人がこうなるまで慶姫同志が知らないはずがあるのか、と皆言い合っている。叔母の夫ですよ。(張)一党を全部そう(粛清)すると報道したが、そうなれば慶姫同志はどうなるのかと言う人もいる。正恩同志は幼いから、怖いものなしに、あんな大胆に物事の処理をするのかと言う人もいます。幹部たちは皆ぶるぶる震えている」(両江道の協同農場員)。

「これ(銃殺・粛清)を間違いだと考える人たちは多いです。むしろ、国を開いて私たちの暮らしがよくなれば、資本主義をやったっていいではないか、生活さえできればいいと。人々はそのように話していますよ。

張ですらあのようになるのなら、(問題起こしたら)私たちは皆殺しにされる。ここでも、これから張成沢の件で殺される者が多いはずだ。丸ごと粛清すると言っているから。恐ろしい」(平安北道の都市住民)。

この発言は、張成沢を改革開放派と捉える国内の空気の表れと言える。中国との経済事業を主導してきたのが張成沢であるのは間違いないが、彼が本当に改革派であったかは疑問である。

金慶姫が2013年12月中旬の金正日二周忌の哀悼行事に姿を見せなかったことへについて問うた。
「出て来なかったんじゃなくて、出て来られなかったんですよ。恥ずかしくてどうして出て来られますか? 皆そう言っています。面目が立たないでしょう」(両江道の都市住民・女性)。

この他にも、夫を見殺しにしたとみなす感想が数多く聞かれた。

「あの粛清は間違っていたと思う。自分の叔父をどうやったら殺せるのだ。仮に張に罪があったとしても殺すことはなかった」(平壌の貿易会社員)。

「正恩同志は本当に無慈悲で恐ろしい人だと皆言っている。叔母の金慶姫同志にも手をかけて、どうにかしてしまったのではないか」(咸鏡北道の農場員)。

※金慶姫には生存説、幽閉説があり、現時点生死は未確認。
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