元家族会事務局長の蓮池透さんとジャーナリスト石丸次郎の対談連載の6回目。
(アイ・アジア編集部) 
<北朝鮮>拉致問題は前進するか. 記事一覧

2014年正月、弟と実家にて。

2014年正月、弟と実家にて。

石丸:「救う会」の佐藤勝巳さんから受けた影響は大きかったですか?

蓮池:それは大きかったですよ。我々が家族会を作った時は、いわばキャンバスは真っ白だったんですが、そこに佐 藤さんたちがいろいろと5年間もやってくれたので、色づけされていきました。ただ、恩義に感じてしまうところがありまして、なかなか家族会が「救う会」に 物申すことが出来なくなっていきました。「救う会」で方針を作って家族会を納得させるみたいに。「救う会」にしてみれば家族会は下部組織みたいなものだっ たのかもしれません。運動方針なんかは全部「救う会」が作ってきて、それを我々がのむという形ですから、被害者家族の心情を弄ぶというか、利用するという か、今考えてみるとそういう部分はあったかと思います。
石丸:具体的にはどなたがですか?

蓮池:佐藤さんを中心に、西岡力さんとか、荒木和博さんとか。もう「北朝鮮では何万人も死んでいて、今年の冬は もたない」なんて言っていましたし、私たちはそれを信じるしかないわけです。佐藤さんは、最終的には日本の核保有ということころにまでいきつくんですが、 集会やっても最後は佐藤さんが締めるんで、反北朝鮮集会みたいになる。それで家族会=反北団体のように受け取られようになったのだと思います。
石丸:そういうイメージを持たれていたと思います。

蓮池:2002年以降、それをさらに煽ったのが当時は官房長官だった安倍さんですね。反省をこめて言えば、私も それに加担した部分があったと言えばありました。私たち家族会に寄ってくるのは国会議員でも右寄りな議員ばっかりでした。私が覚えているのは、中川昭一さ ん※に「憲法記念日に来てくれ」と言われたので、「憲法記念日に何をしゃべるんですか」って訊いたら「9条が邪魔だとでも言っとけ」と。何にも知らなかっ たのでそのまま言っちゃった。その集会は改憲派の集まりだったんです。当時、私も歳はとっていましたけれど、それまで政治には興味がない、ただのノンポリ でしたから「お世話になっている人に頼まれたので」といった感じで軽く考えていたんです。今となっては恥ずかしい限りです。

石丸:そんな時に、記者の手帳に「家族会の右傾化」というメモを見つけたわけですね。

蓮池:こりゃいかんなと、はたと気づきました。少なくともニュートラルに戻さないと世間の支持はなくなっちゃう、危ないと思いました。
石丸:右傾化に批判的なことを言うと、家族会の中ではどのような反応だったんですか?

蓮池:ダメでしたね。「変なこと言うな」と。そもそも家族会の打ち合わせって、「救う会」の人が必ずいるんですよ。
石丸:被害者家族の皆さんが言いたいのは、家族を取り戻してほしいということですよね。その際に、「北朝鮮にガツンと やってでても何とかしてくれ」という激しい言葉が出て来てしまうのも、家族の思いとして分かるんです。しかし、そのコメントがテレビにことさらに取り上げ られて流れると、話されている人は強硬派に見えるだろうし、見ている側も、「そりゃそうだ、ガツンとやらないと。政府は何をしてるんだ」と思ってしまう。 「北朝鮮になめられてる」「もっと強硬にやれ」という風潮が2002年から今日までずっと続いてきた。社会感情が政策を縛るようになった側面があったと思 います。さらに運動に右翼が入り込んで来たり、政治家が自分の政治集会に被害者家族を連れて行って演説させたり...。家族に対する「無垢な被害者」とい うイメージは薄くなって、政治性の強い人たちと思われていったと思います。一方で、家族が政治利用されていると感じた人も多かったと思います。

蓮池:完全に政治利用されましたよ。いや、いまだに利用されていますね。うちの両親も昨年の衆院選で新潟に安倍さんが来た時に応援に呼び出されました。ああ、まだ利用すんのかと思いました。
石丸:断れないんですか、やっぱり?

蓮池:義理ですかね。安倍さんが選挙公示後新潟県に入って柏崎に来た時に、演説するから弟(薫さん)に来てく れって言われたんですが、弟は「ちょっと行けません」って返事すると、「じゃ、ご両親は?」って言われました。警察とグルになっているんですよ。よく来る 地元の警察署の課長クラスの人が電話してきて、両親に「私を目印に来て下さい」と言うんです。行ったら安倍さんが来ていて、演説でも「蓮池薫さんの両親が 今日、見えてます」って言うわけです。私が「結局、ダシか」て言ったら、両親も「仕方ないだろ。義理だ、義理」って言ってました。(続く)
※<中川昭一> 元自民党衆議院議員、元拉致議連会長。2010年10月に57歳で急死。
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※佐藤勝巳氏(さとうかつみ 1929-2013)共産党員として朝鮮問題に関わり、在日朝鮮人の北朝鮮帰還事業を支援。その後共産党を脱退し「現代コリア研究所」を設立。「救う会」会長を務めた。
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拉致問題はなぜ前進しないのか?
~金正恩体制と安倍政権、そして救出運動の問題点を考える~
●第一部 対談
「安倍政権と運動団体は拉致を前進させられるのか?」
蓮池透さん(元拉致被害者家族会事務局長) × 石丸次郎(アジアプレス)

●第二部 報告
「硬直する金正恩体制」(内部映像を交えて)
報告:石丸次郎(アジアプレス)
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北朝鮮内部からの通信 リムジンガン 第7号 詳細 >>

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