張成沢と改革開放への期待
石丸 やはり最大の実力者は張成沢だと見ていますか?

キム 記録映画をよく見てみなさい。金正恩が何か指示すると周りの者は手帳に何かを書くふりをします。形式的で本当に書いている者はほとんどいないけれど。張成沢はどうですか? 金正日の横に付いて回っていたときと、今とでは完全に態度が違います。金正日に随行していたときは、愛想笑いもしていたが、今はニコリともしない。正恩は妻の甥でまだ30前。(媚を売るのは)こっけいでしょう。(金正日の生前とでは)振る舞いが完全に変わったとことは、われわれが見れば分かります。

中国にも張成沢が行きましたね(12年8月に主に経済協力問題を協議するため代表団率いて訪中し胡錦濤国家主席、温家宝首相ら中国首脳部と会談を行なった)。われわれは、正直言って、金正恩よりも張成沢への期待が大きいですよ。

石丸 どのような期待ですか? 確かに、中国トップと交渉できる実力は相当です。金正恩にはまだまだ荷が重い。

キム 改革開放への期待です。張成沢は改革派だという言い方が、少しずつですが内部でもされています。張成沢が、もしすべてのことを思うままにできるのならば、「我われはこういう風(改革開放)に進まなければならない。そうでなければ死ぬことになる。金一族も最後には死ぬ」というように、(改革開放の方向に)引っ張って行ける。そうすれば、(国も)まともになるでしょう。政治の世界では張成沢は今や一番脂がのっている。

30にもなっていない者(金正恩)に何ができますか? 私から見ても子どもです。だけど、これは知っておかないといけない。朝鮮には金日成や金正日や金正恩よりも優秀な人物がいてはいけないんです。皆それらよりも出来が悪くなければならない。言い換えれば、いくら優れていたとしても、(金一族が)「最高です、この世で一番です」と、敬って生きていくのが有利なのです。

朝鮮の幹部たちをご覧なさい。金永南(注4)は90歳近くて正恩のじいさんくらいの人でしょ。なのに、最高人民会議で何か演説をするときは、正恩の横に行って、「金正恩同志、演説をさせていただきます」と挨拶するわけです。金永南や崔永林(注5)、それから金基南(注6)。みんな従順な者です。

ところが李英鎬は見かけが荒っぽく、体もでかくてケンカが強そうに見える。案の定、そういう人たちは排除されるんです。朝鮮では、金一族の三人だけが偉大であり、他の人たちは皆彼らのための道具でしかない。優れた人物は出てこられないんです。 (続く)
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このインタビューは張成沢粛清前に行われました。

【注1】 崔龍海(チェ リョン ヘ) 50年1月生まれ。父親の崔賢(チェ・ヒョン)は、金日成と共に「満州」で展開された抗日パルチザンで活動した。金正日の側近の一人で、金正恩体制発足後、党政治局常務委員、党中央軍事委員会副委員長、国防委員会副委員長、人民軍総政治局長に就任、金正恩の後見人の一人と目されていたが、張成沢粛清後、人民軍総政治局長を退任し、本誌発行時点では党書記の肩書だけで紹介されている。
【注2】 李英鎬(リ ヨン ホ) 42年生まれ。金正恩の軍人の補佐役として金正日が晩年に抜擢、人民軍総参謀長、次帥、中央軍事委員会副委員長に急昇進したが、12年7月に、突然全役職から解任と発表された。
【注3】 李済剛(リ ジェ ガン) 30年生まれ。党や軍の幹部の監督と人事を司る党組織指導部の核心幹部として長年権勢を振るい張成沢と確執が深かったといわれる。組織指導部第一副部長だった10年6月に交通事故で死亡と発表されたが、張成沢が謀殺したという説がある。
【注4】 金永南(キム ヨン ナム) 28年生まれ。国会議長に当たる最高人民会議常任委員会委員長。外交畑が長く元首格として外国賓客との会談や応接に当たること多い。
【注5】 崔永林(チェ ヨン リム) 29年生まれ。元内閣総理で党官僚長老の一人。党政治局常務委員
【注6】 金基南(キム ギ ナム) 29年生まれ。党官僚長老の一人。宣伝扇動部長、党政治局中央委員など歴任。
当記事は、『北朝鮮内部からの通信「リムジンガン」第7号』に掲載されています。

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