福島第一原発事故が起きて、多くの人が避難せざる得ない状況に追い込まれた。家屋や土地を手放した人、家業を続けられなくなった人、様々な人が多大な物的 被害を被った。その責任は東京電力と国にあることははっきりしているのだが、賠償は思うように進んでいない。この問題について、元京都大学原子炉実験所助 教の小出裕章さんに聞いた。(ラジオフォーラム)

ラジオフォーラムの収録で語る小出裕章さん
ラジオフォーラムの収録で語る小出裕章さん

◆東電の負担は最大1200億円

ラジオフォーラム(以下R):政府は未だに「原発は安い」「安価だ」と言い続けていますが、今回は原発事故の損害賠償について、小出さんにお話をうかがいたいと思います。

小出:皆さん今、日本というこの国で生きていて、さまざまな保険にご自分で加入されているだろうと思いますし、企業にしても様々な保険に入って、何か事あった時にはその保険でまかなうというのが、いわゆる資本主義という世界の原則です。
原子力発電所というものが万一であっても事故を起こした場合、国家が倒産するほどの被害が出るということは、原子力の専門家ならみんな承知していました。 当然ひとつの企業でそんな被害の賠償ができるわけはありませんし、保険会社もそんなものに関しては契約を結ばないということになっていたわけです。

そのため、いわゆる資本主義を標榜する国としては大変異例なことに、日本では原子力損害賠償法という法律が1961年に作られました。万一の事故の 時に備えて、電力会社は当初は50億円でしたけれども、だんだん金額が上がってきまして、今は1200億円の賠償金を用意しておけば、あとは国が国会の議 決を経て面倒を見るという、あり得ないような法律で守られてきたのです。ですから電力会社としては、とにかく1200億円だけ準備をしておけば、あとは国 がやってくれるという、そういうつもりで今日まで来てしまいました。

R:そうしますと、福島第一原発事故での損害額とその賠償は、どういうふうになっているのでしょうか。

小出:原子力損害賠償法の定めに従えば、まず東京電力は用意しておいた1200億円の賠償金を払うということになり、それを超えたものは、国が国会の議決で面倒を見るということは今お話した通りです。

実際には、今のところは恐らく10兆円、あるいはそれを超えるぐらいのお金がかかるだろうと、国の方は言っているわけです。しかし、私自身は多分そ んなことでは到底足りない、何十兆円ものお金がかかるだろうし、もっと本気で住民に対しての賠償などをすれば、日本の国家が倒産してしまうほどの被害が出 ていると思っています。

いずれにしても、東京電力が全部を負担するなんてことは到底できないわけですから、現状では政府が原子力損害賠償廃炉等支援機構という組織をつくり まして、国のお金を東電に回しているという状態になっています。一応、数十年かけて東電を含む電力会社から返済を受けるという計画になってはいます。そし て、会計検査院の試算では最大で1200億から1300億円ぐらいの利子が、国民負担になるという試算を出しています。しかし実際には、国や東京電力の考 えている賠償額よりも、はるかに巨額の賠償額が必要になると思いますので、おそらく何千億円というような利子が、これから国民の負担になっていくのだろう と思います。

R:そういった状況の中で、今、電力会社と国がこの賠償をめぐって押しつけ合いをしているわけですが、これはどういうことなのでしょうか。

小出:もともと日本の原子力というのは、国がやるのだと言って決めたのですね。そして、原子力損害賠償法という ような法外な法律をつくったり、あるいは電気事業法で電力会社の利益を完璧に保証したりして、原子力をやればやるだけ儲かるというような仕組みを作って、 電力会社を原子力に引き込んだのです。そのため日本の原子力は国策民営と言われるようになってきました。

つまり、国が重大な責任を持っていたわけですし、それを引き受けた電力会社が仮に何か事故を起こしたとしても、やはり国に責任があるということは、 私としては当然のことだろうと思います。ですから、事故が起きたとしても、電力会社は「お前(国)が引き込んだのではないか」というように当然思っている わけですし、国の方も自分の責任をしっかりと認識しているわけですから、国は東京電力を生き延びさせて、倒産をさせることのないように支えながら、そのツ ケを国民に回していくというようなことをやっているわけです。

もし本当に被害を賠償しようと思えば、東京電力など何十回倒産しても足りないわけです。けれども、実際には国がそれを支援して東京電力を生き延びさ せて、東京電力はすでにまた黒字になっているという状態です。結局、誰も責任をとらないまま、一切のツケを国民に押しつけながらみんなが生き延びて、国も 東京電力も生き延びていくというそういうことをやっているわけです。

R:大事なことは、今、被害を受け続けている人たちがいて、そういう人たちをどうやって救済するかということだと思うのですが、小出さんはどのようにお考えですか。

小出:福島第一原子力発電所の事故で、今も多くの人が故郷を追われて流浪化しているわけですし、本当であれば、 放射線管理区域に指定しなければいけない汚染地帯に、人々がそのまま捨てられて生活を余儀なくさせられているわけです。事故からすでに4年以上経ちました けれども、そんな状況がずっと続いています。もっときちんと国として救済をしなければいけないと思うのですけれども、それをやろうとすると、国が倒産する ほどのお金になってしまうわけです。

4年経った今でも、原子力緊急事態宣言というものは撤回されないまま、未だに緊急事態が続いています。そして、被害者も苦難にあえいでいるという大 変なことになっているわけで、もしそんなことをきちんと賠償しようと思えば、原子力発電というものがどれだけ高くつくものか全く分からないほどになってし まうということだと思います。

R:賠償問題を考えると、「原発が安い」という言葉がどこから来ているのか本当に不可解になりますね。

「小出裕章さんに聞く 原発問題」まとめ

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