北朝鮮の記事にも社説、論説、政論、論評の他、現地取材などの「企画もの」があるが、その使命は人民のためではなく、党と首領のためのものである。取材から発表までどのような過程を経るのか?両江道恵山(ヘサン)市の放送委員会で8年にわたって報道部記者を務めたユン・ビョンヒ氏による告白手記の三回目。(寄稿ユン・ビョンヒ 整理/訳リ・ジンス)

撮影者によると「中の上のぐらいの生活水準」の家庭の夕食の団欒。カラーテレビとラジカセが見える。朝鮮中央放送は平日は午後5時から11時までの放送。ラジオは各道で地域放送もしている。(2008年6月 平安南道徳川(トクチョン)郡 ペク・ヒャン撮影)
撮影者によると「中の上のぐらいの生活水準」の家庭の夕食の団欒。カラーテレビとラジカセが見える。朝鮮中央放送は平日は午後5時から11時までの放送。ラジオは各道で地域放送もしている。(2008年6月 平安南道徳川(トクチョン)郡 ペク・ヒャン撮影)

 

金ファミリーの偉大性宣伝が任務
朝鮮で「報道」を定義するならば、社会の成員すべてを「全社会の金日成主義化」の要求に合わせ教養、改造するための手段であり、人民大衆を革命と建設に動員させるための思想的な武器といえる。

放送は、人民たちの「知る権利」とは無関係なところで、労働党の思想と意図を一方的に伝え、党の方針と思想が正当であることを流しさえすればそれで事足りる事業なのである。規定された放送の使命も「全社会の主体(チュチェ)思想化、金日成主義化の実現」となっている(注5)。

記事の種類には、社説、論説、政論、論評、偉大性の教養記事、徳性実話、肯定教養記事、紹介記事、闘争記、同乗記、参観記、座談会、現地放送、階級教養記事、手記、随筆など様々なものがある。

中でも最も割合の多い「肯定教養記事」の場合は、党の方針によく合致する個人や集団の話を通じ、「皆さんも彼らのように闘争しなければならない」と書くことになる。体制にとって肯定的な行動や精神を取り上げて、そういった行動こそが党が望むものであり、今の時代の真の人生であると強調するのだ。

次に多いのが「紹介記事」で、これは主に経済分野の事業に成果のあった個人や集団を取り上げ、称賛する記事である。「偉大性の教養記事」とは、文字通り金日成、金正日をはじめとする金ファミリーの偉大性を宣伝するもの。

ほかに「闘争記」という朝鮮独特の形式の記事があるのだが、これは現場の中継放送(ロケーション)を指す。熱気あふれる現場を直接訪れ、機械の音や、労働者のかけ声などの現場ならではの音と共に、働く人々の決意、党の路線を貫徹するためにどのように努力しているのかなどを、臨場感を持って知らせるものだ。

検閲に次ぐ検閲 原稿が放送されるまで
取材対象と記事内容に対し、記者には決定権(決裁権)がない。毎月25日になると、次の月に記事に書かなければならない「月間放送計画(出版言論計画)」が党の宣伝扇動部から指示される。

この計画では3つの分野の記事を伝えることが要求される。まずは金ファミリーの「偉大性の教養」、次に「政治思想の教養」があり、3つ目に「経済部門」の記事となる。「偉大性の教養」には記事だけなく、「労作」(注6)の紹介、金ファミリーの関連する記念日の特別記事、政論、社説、参観記などの形式が含まれる。

「政治思想教養」は「社会主義、愛国主義教養」と「階級教養」に分けられる。また、「経済部門」の場合は、紹介記事と報道、闘争記、批判記事がある。

両江道放送委員会の場合、放送はラジオと「3放送」(注7)で行われる。ラジオ放送は誰が聞いても問題のないような内容になるが、3放送の場合は、一定の内部機密と海外批判を含むため、外国人が聞いてはならない内容が主である。

取材が放送になるまでは、「記事校正」過程と、「放送制作」過程に大まかに区分できる。記者が作成した記事はまず、該当部署の部長に提出することになる。部長が承認(記者に戻され修正する場合もある)すると、原稿は総合編成部の校正編成員の手に渡る。

特に問題が無く、修正の必要がない場合には、放送委員会の副委員長、委員長、初級党秘書の順に批准を受ける。こうして承認された各部署の原稿は校正編成員によって集められ、「道出版検閲局」に行く。そこで検閲を通過すると最終承認となる。ここまでが記事原稿が確定するまでの過程である。

次に放送制作に取り掛かる。まず総合編成副委員長(放送委員会副委員長)が、承認された原稿によって放送の編成(順序決め)を行う。出来上がった放送編成表は、放送委員会の委員長、別の副委員長の承認を得なければならない。

その後、総合編成副委員長は編成表を持って、直接、道党の「宣伝部」を訪れる。道党の宣伝扇動部出版指導課課長、同宣伝秘書の順に承認を受けると、放送員(アナウンサー)などが加わり録音など番組制作が始まる。

そして、編成表の通り録音され番組として編集されたあと、総合編成副委員長が承認すると、再度、編成時と同様の承認過程を経て、やっと放送にこぎつける。
記者の取材が放送になるまでは、このように、あまりに複雑な過程を経なければならない。にも関わらず、実際に送出された番組に問題が見つかり、困難な立場に立たされる場合もある。
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