混迷する中東情勢。パレスチナやイラク、シリアなどの紛争地の取材をするのは男性だけではない。現場に20年以上通い続ける、古居みずえ、玉本英子 (ともにアジアプレス)と、稲垣えみ子元朝日新聞論説員を交えての座談会が昨年9月、東京で行なわれた。なぜ中東取材を始めたのか、現場ではどのように行 動するするのか、実情などが交わされた。(まとめ:古居みずえパレスチナドキュメンタリー映画支援の会)

座談会では「なぜ遠い場所の取材にこだわるのか」という問いから始まった。中東取材を続けるアジアプレスの玉本英子(左)古居みずえ(中)と、元朝日新聞論説員の稲垣えみ子氏。(2014年9月東京・早稲田大にて)

座談会では「なぜ遠い場所の取材にこだわるのか」という問いから始まった。中東取材を続けるアジアプレスの玉本英子(左)古居みずえ(中)と、元朝日新聞論説員の稲垣えみ子氏。(2014年9月東京・早稲田大にて)

 

◆会社員からジャーナリストへ

稲垣:
私は朝日新聞に入社して28年目になります。主に社会部の記者、特に大阪本社に長くおりまして、その後、東京に転勤して「ザ・コラム」という欄を担当しま した。大阪など地方の取材が長くて、中東のことなどは全くの門外漢です。一方で、なぜ日本から遠い場所の取材にこだわるのかという素朴な疑問もあります。 まずはそこからお伺いしたいのですが。

古居:
私は最初からジャーナリストではなくて、会社員の時、30代後半でリウマチになって、一時は寝たきり状態になって、これから何もできないと思っていたら、入院して何週間後かに、治ることがわかったんです。それがきっかけでカメラをやり始めました。

1年ぐらい、写真を撮ったりしているうちに出合ったのが、パレスチナの写真展。子どもたちの目がすごく輝いていて、感動して、そういうものを撮りた いと思いました。だから、全然基礎的なものも勉強してないし、何もわからないなかで、とにかく気持ちだけでパレスチナに行って、家族の中で居候させても らって、その人たちの温かさに触れて、好きになったんです。

その頃、イスラエルの占領に対する抵抗運動(インティファーダ)が始まっていて、子どもも女の人も、おじいさんも命がけで必死に石を投げていて、そ こで起こっていることがだんだんわかってきて、これは伝えなくちゃいけないと、帰ってきて何とか伝える努力を始めたんですね。ただ、インティファーダとい う抵抗運動を撮るよりも、女性たちに興味を持ちました。パレスチナに行って初めてイスラム社会というのを知って、この人たちスカーフかぶっているんだ、と か、お祈りしてるとか、そういうのが初めてわかって、面白いところだなと。向こうは私が面白かったかもしれないですけど(笑)。で、一緒に暮らすうちに、 こういう仕事になってきました。

稲垣:
古居さんの『ガーダ』という映画を拝見したのですが、撮っている人の存在を感じさせないというか、撮られる側がカメラを意識していない。それがすごく印象に残ったんですけど。向こうの家庭では、古居さんはどういう存在だったのでしょうか。

古居:
日本でも影が薄いんですけど(笑)、向こうでもやっぱり薄いですね。空気みたいな存在だろうと思います。

稲垣:
なるほど、それってできるようでできないことです。すばらしいと思います。玉本さんは、報告を拝見するとまた古居さんとはちょっとキャラクターの違いがあってすごく面白かったんですけど、なぜ中東だったのでしょう。

玉本:
私は大阪に住んでいて、大学はグラフィックデザイン専攻だったので、デザイン会社に就職していました。たまたまテレビニュースで、クルド人の男性が自分自 身にガソリンをかけて火をつけて機動隊に突っ込む映像を見ました。94年でしたが、それを観たとき、自分は何も考えずただ楽しく暮らしてきて、同じ時代 に、こんな人がいたことがショックでした。そしてクルド人に興味を持って会ってみたいと思ったんです。

稲垣:
それもすごいですよね。テレビを見ただけでその人に会いに行こうというのは、相当ジャンプがあるような気がするんですけど。

玉本:
今でこそジャンプだと思うんですけど、当時はバブル後期。私も若かったので、今の仕事辞めても、なんとかなるさ、と、あまり考えずに行きました。テレビで 見た焼身決起の男性に、もちろん会えると思わなかったのですが、アムステルダムのクルド人が集まるカフェで、たまたま会うことができました。

稲垣:
その時何を一番聞きたかったんですか?

玉本:
私は、その時、ジャーナリストでもなんでもありませんでしたから、素朴な疑問で「なぜそんなことしたのですか」と聞いたんです。その時、彼は言いました。 「私の故郷で何が起きているかを知れば、君も同じことをするだろう」と。その後、彼らの故郷である、トルコの南東部へ向かうことにしました。そこでは、ク ルド人としての権利を求める人たちが拷問を受けたり、殺されたりしていた。「これは、日本に知らせなければ」と思ったのがきっかけです。(つづく)

古居みずえ
島根県出身。アジアプレス所属。JVJA会員。88年よりイスラエル占領地を訪れ、パレスチナ人による抵抗運動・インティファーダを取材。パレスチナの人々、特に女性や子どもたちに焦点をあて、取材活動を続けている。ドキュメンタリー映画に「ガーダ パレスチナの詩」、「ぼくたちは見たガザ・サムニ家の子どもたち」
玉本英子
東京都出身。アジアプレス 大阪オフィス所属。戦争や紛争地など戦火のなかの市民を視点に取材活動。イラク、シリア、レバノン、コソボ、トルコ、アフガニスタン、ミャンマーなど、写真、ビデオで取材、発表。テレビのニュースリポートや新聞、雑誌、ラジオ、講演会を通して伝えている。
稲垣えみ子
愛知県出身。元朝日新聞論説委員。
87年入社。約2年間、大阪社会部の教育担当デスクを務め、橋下徹・元大阪市長に関する報道にも携わった。当事者の話を一人称で記録する「聞き書き」をしてきた。著書に「死に方が知りたくて」「震災の朝から始まった」。

 

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