ショータイムに歌を披露する北朝鮮人の従業員。近所のアパートで集団で暮らしていた。2013年7月吉林省延吉市にて撮影(アジアプレス)
ショータイムに歌を披露する北朝鮮人の従業員。近所のアパートで集団で暮らしていた。2013年7月吉林省延吉市にて撮影(アジアプレス)

 

◆大きな葛藤があったはず

すべての脱北者が経験したはずだと思うのだが、寧波事件の13人も、5月の事件の3人も、食堂からの逃亡を決心するまで、大きな葛藤と苦しみがあったはずだ。 逃亡してから韓国にたどり着くまでの道程は、決して安全が約束されない命懸けだ。万一中国で逮捕されて北朝鮮に送還された場合、命は保障されない。

韓国に定着した脱北者で、北朝鮮に送還された経験のある複数の知人は、送還された時のことを思い出すだけで胸がどきどきすると言う。送還された脱北者らが拘禁施設で経験する屈辱と飢え、暴行や殺人的な強制労働などは、人間の想像を超越する地獄のようなものだった、と彼らは言う。

しかし、脱北を決心する上で最も悩ましいのは、自分の逃亡によって無実の家族や知人たちが被害を受けることだと思う。

北朝鮮から脱出した後の経験を述べておきたい。自分の脱出後、残された職場の同僚たちは、保安署(警察)、保衛部(秘密警察)などから厳しい尋問を受けたと聞いた。私の脱北の動きを事前に知っていたと見なされたら、それは過酷な処罰を受けたはずだ。

脱北した者が勤務していた機関や企業、居住地域では、脱北者を「背信者」「裏切り者」と罵倒し、同僚や所属の責任者を批判する集会が行われる。脱北とは無関係な人間が、大変な精神的苦痛を受けることになる。

脱北と無関係な周囲の人の被害がこれ程なのだから、脱北した者の家族に加えられる処罰の過酷なことは言うまでもない。脱北した者の地位、職種、脱出経緯によって受ける処罰には差があるが、残された家族、親戚は、酷い場合は政治犯収容所に連行されたり、山間地域に追放されたりする。

そこまで厳しくない場合でも、昇進や労働党入党が許されないなど、疎外された人生を歩まなければならなくなる。家族と周囲の者に降りかかるであろう不孝を想像して、脱北を考える者は皆、胸をえぐられるような苦悩を経験するのである。

前出のアジアプレスのインタビューで、北朝鮮に住む女性は次のように心情を吐露していた。

「10人いたら10人が、100人いたら100人が、1万人いたら1万人が、韓国に行きたくない人がどこにいますか? 電気、水道も出ないところで誰が暮らしたいと思いますか? 皆、親がいるから、行けないだけです」
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