前述した保衛司令部傘下の運転手は、月に3~4回程度、「稼ぎ車」としての営業運転を行い、一回に最低200ドルの運賃を受け取っていると言っていた。

1ヶ月で1000ドル前後の副収入を得られる計算になる。権力機関に所属しているとはいえ一介の運転手にとっては、きわめて魅力的な稼ぎだと言える。

「稼ぎ車」は、スピード面での利便性も非常に優れていて、長距離を移動する場合であっても、列車より早く目的地に着くことができる。トロトロ走る列車は、住民の間では「牛車の方がよっぽどマシだ」と言われているほどだ。

たとえば、中朝国境沿いの恵山から平壌までの本来の鉄道による所用時間は23時間だが、実際には一週間ほどかかるのが当たり前になっている。

「稼ぎ車」で同じ距離を移動する場合、恵山から途中の咸興までがおよそ六時間。そこで「稼ぎバス」に乗り換えて、さらに七時間も走れば平壌に到着する。悪天候や取締りなどのトラブルに遭わない限り、その日のうちに平壌に入ることができるのだ。

ここまで見てきた通り、より速く、快適で安定した交通手段を求める北朝鮮の人々の需要は日増しに増大しており、それに応えようとする商業的交通手段の成長の勢いは実に力強い。

仮に将来、国営交通手段の運営に独立採算制が導入されて運行が安定するようなことがあったとしても、「稼ぎバス」や「サービ車」などは、サービス内容をさらに改善・充実させて、国営交通手段に対抗するのではないだろうか。つまり、交通分野の市場経済化は不可逆に進行して行くということだ。(取材 リ・フン/ペク・チャンリョン 訳・整理 リ・チェク) 了

※当記事は、『北朝鮮内部からの通信「リムジンガン」第7号』に掲載されています。

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