2-2 北朝鮮支援の流用と横流し

◆支援物資の横領と横流し
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数多くの脱北者の証言によると、外国からの支援物資は国家機関による組織的な横領と、不正腐敗行為による市場への横流しに晒され続けて来た。前者は主に「優先配給対象」に回され、後者は現金と引換に「民間保有」となって市場で流通することになる。

韓国のNGO「北韓民主化ネットワーク」が2011年3月末、韓国在住の脱北者500人に調査したところ、78.2%が支援食糧を「受け取ったことがない」と回答。「受け取ったことがある」とした人のうち27.4%が支援食糧を「当局の指示に従い返納した」と答えた。支援食糧の行き先については、73.6%が「朝鮮人民軍」、69.0%が「朝鮮労働党幹部」と回答している。

◆援助資金の実質的流用 金正恩政権の財布はひとつである

現金供与でなく現物で援助されたとしても、それが流用されることで、本来食糧購入(輸入)や農業基盤整備に当てられるべき北朝鮮政府の資金が別の用途に振り向けられれば、現金供与と結果は同じである。

例えば、「優先配給対象」に対し、本来国家の責任で購入して支給されるべき食糧が外国からの支援で賄えれば、そこに振り向けられるべき資金は浮き、政権は別の優先度の高い項目に使用するだろう。それは軍事費かもしれないし、金父子の銅像建立費かもしれない。金正恩政権の財布は基本的にひとつである。浮いた金をどこに使うのか、それを援助供与者(ドナー)は決定できない。

◆貴重な外貨の政治的浪費続く

金正恩政権の四年間、彼らが力を入れたことを振り返ってみよう。馬息嶺スキー場建設、平壌の各種娯楽施設建設、高層アパート建設、乗馬クラブ、金正日の巨大銅像の追加建立、金日成、金正日の遺体を安置する錦繍山太陽宮殿の大改修、そして核・ロケット開発、36年ぶりの労働党大会開催などの大イベント…などだ。これらを「金正恩の実績」として官営メディアで大々的に宣伝してきた。

また警察や保衛部の装備の充実等にも多額の資金が投入されたと思われる。例えば、中国との国境地域において、中国キャリアの携帯電話の電波探知、妨害電波発射の機器が新規に大量に配布されていると、2012-2016年中に多くの住民証言があった。いずれも、金正恩の偶像化、権威付けと体制正統化、軍事強化、人民統制強化が目的だったと言える。

市場で買った中国米を運ぶ途中の女性。2008年9月平壌郊外にてチャン・ジョンギル撮影(アジアプレス)

市場で買った中国米を運ぶ途中の女性。2008年9月平壌郊外にてチャン・ジョンギル撮影(アジアプレス)

 

※参考 中国からの穀物(植物性生産品)輸入額は201,264千ドル(2013年) 149,891千ドル(2014年) 111,182千ドル(2015年)(Global Trade Atlas))

周知の通り、90年代後半のいわゆる「苦難の行軍」期の経済破綻と社会混乱によって配給制度が麻痺し、多くの人が餓死した。その後、住民は商行為や労働力を提供することで現金を入手し、市場で売買される食糧を入手することが可能になった。

2000年以降、配給制度が部分的にしか復旧していないのに餓死者が続出するような飢饉は収束していたのである。また、全国で2003年に合法化された総合市場には、常に各種の食糧、食品が売られている。今では、現金さえあれば、誰でも、いつでも食糧を入手することが可能だ。このことから、北朝鮮の食糧問題とは、「絶対量の不足ではなくアクセスの問題」であることがわかる。

市場で韓国と米国から支援食糧が売られている。袋の封が開いていない。2004年7月ハムギョン北道清津市 ASIAPRESS

市場で韓国と米国から支援食糧が売られている。袋の封が開いていない。2004年7月ハムギョン北道清津市 ASIAPRESS

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