10月半ば以降、北朝鮮各地で電力事情が悪化し、鉄道が麻痺状態にあることが分かった。複数の北朝鮮内部の取材協力者が伝えてきた。(カン・ジウォン)

「現在、鉄道はほぼ運行停止といってもいい状態。通常24時間で行ける恵山(ヘサン)-平壌間が、10日以上かかるので、乗ろうとする人はほとんどいない」

調査のために平安南道に行ってきた恵山市の取材協力者は、11月17日にこのように伝えてきた。彼は、「サービ車」と呼ばれるトラックやバスを乗り継いで平安南道を往復した。咸鏡北道の他の取材協力者も、異口同音に鉄道運行の悪化を伝える。

「電力事情が悪くなって10月半ばから鉄道が動いているのを見かけなくなった。茂山(ムサン)郡から平壌に行くのに10日以上かかる。停まってしまった列車内で死人まで出たそうで、ほとんど利用する人はいない」(茂山郡の協力者)

鉄道が麻痺している理由は電力事情の悪化だというのが協力者たちの一致した意見だ。

(参考写真)走行中に止まってしまった列車。窓ガラスがほとんどない。2002年8月両江道恵山市郊外を中国側より石丸次郎撮影(アジアプレス)

(参考写真)走行中に止まってしまった列車。窓ガラスがほとんどない。2002年8月両江道恵山市郊外を中国側より石丸次郎撮影(アジアプレス)

「恵山市内の自宅は、電気が来るのはよくて一日2-3時間程度。保衛部、党機関、特別な工場企業所に優先して送電するので一般住民は後回しだ。余裕のある家は中国産の太陽光パネルを買って灯りを灯している」(前出の恵山市の協力者)

「家庭にも電気ほとんど来ないし、来ても電圧が弱くて使えない」(会寧市の協力者)

北朝鮮の鉄道は、基本的に電気鉄道である。昨年初めに一部区間でディーゼル機関車を導入したが、台数が少ないためか、コストがかかるためか、使用が増えているようには見えないという。

北朝鮮は発電の過半を水力が占める。毎年秋になると渇水し、冬季は凍結のため水力発電の稼働が落ちる。この10月中旬からの電力難が、水力発電の不振によるものか、他に原因があるのか、現時点でははっきりしない。

北朝鮮の鉄道運行がでたらめになったのは、昨日今日のことではない。だが、金正恩時代に入って以降の2013年度頃から改善の兆しが見え、遅延・延着も悪くて数日程度、動かない列車内で死者が出るという話は長く聞こえてこなかった。今秋の、列車が動かぬほどの電力事情悪化は想定外であった。

一方、平壌と中国を結ぶ国際列車は毎日運行されていると、中国丹東市の取材協力者は伝えてきている。
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