(参考写真)中国側に掲げられた「麻薬密輸活動を許すな」の立て札。背後は北朝鮮。1999年8月 撮影アジアプレス

 

Aはオルムに対する罪悪感がほとんどなかった。目も少し虚ろだった。非常に優秀で仕事がでる男だっのだが、その時から関係を完全に切らざるを得なくなった。

北朝鮮国内で覚醒剤が蔓延するようになったのはなぜか。北朝鮮当局は、覚醒剤を中国への密輸を経由して世界に売りさばいていたが、中国を筆頭に、国際社会が圧力をかけた結果、2007年3月に、麻薬拡散防止のための代表的な三つの国際条約を批准するに至った。

2011年2月20日付の朝鮮中央通信は「中国公安部長が国境地域の安全を守ることを強調」と題した記事を配信した。中国の公安国境警備隊が、国境地域で麻薬事件2153件を調査・処理して2883名を逮捕、3トン828.75キロにも及ぶ大量の麻薬を押収した、と報じた。

北朝鮮の国営メディアが、中国当局の具体的な数字をあげて、自国の恥とも言える密輸の事実を認めるのは、極めて異例のことだった。中国から強烈な圧力があったのは間違いないだろう。

このように、中国への密輸が困難になって国外でさばき切れなくなった覚醒剤がだぶつき、密売組織が国内に販路を見つける必要性が出てきたのだ。

実際、北朝鮮の覚醒剤の蔓延状況は極めて深刻で、富裕層中心に、タバコのように「一服しなさい」と気軽に勧めるほど「寛容」で罪悪意識が薄い。また「疲労に効く」と薬効を信じている人も多い。まるで、戦前戦後の日本の「ヒロポン」の流行を彷彿とさせる。

さて、北朝鮮政権の名誉のために言うと、覚醒剤などの不法薬物を、政府がまったく放置してきたわけではない。金正日政権の末期から中国への密輸はもちろん国内流通も取締りをしていた。だが、手ぬるい上に、前述したように覚醒剤の危険性を軽視し、罪悪感が希薄な社会風潮と、捕まっても賄賂で解決できるという「ローリスク」商売であることが、覚醒剤を蔓延させる大きな要因になっていた。

だが、この3月に入ってから始まった集中取り締まりは、これまでとは水準の違う厳しいものになりそうだ。「覚醒剤の使用と密売で逮捕された者で拘置施設が一杯にになっている程だ」と、複数の北朝鮮内部の取材協力者が伝えてきている。しかも、取締りを主導しているのは、秘密警察組織の国家保衛省だという。金正恩政権が覚醒剤撲滅に本腰を入れたのは間違いない。次回は、その具体例を報告する。(続く)

【関連記事】
あまりに深刻な覚醒剤汚染 中学生から警察官まで
<北朝鮮>ドローンに怯える金正恩政権が撃墜訓練始める 暗殺、空撮、情報散布を警戒

おすすめ<北朝鮮> 写真特集・無料動画… 

★新着記事