現在も、被害者数は最大で数千人にのぼる可能性があると考えられている。古賀都議は「6000人」ではなく「数千人」と書いてあれば文句はなかったのだろうか。

そんなことはないだろう。実は古賀都議はこの日の質問の中で、犠牲者数だけでなく、朝鮮人が「誤った流言蜚語によって」殺されたという碑文さえも「事実に反する」のだ、日本人への「ヘイトスピーチだ」なのだと主張している。彼によれば、朝鮮人独立活動家が「震災に乗じて」「不法行為」「凶悪犯罪」を行ったので自警団が彼らに反撃したというのが真相だという。つまり虐殺の引き金となった「朝鮮人暴動」の噂は「流言蜚語」ではなく事実だったというのである。

ばかげている。先に紹介した中央防災会議の報告は「朝鮮人の迫害は、同時代には誰の目にも明らかであった」と書いている。「流言の根拠がないことがわかった後の回想や評論では、誤解による悲惨な事件として回顧され」てきたともある。実際、「朝鮮人暴動」が根拠のない流言蜚語だったということは、当時の司法省や内務省、警視庁の文書などでも明確にされているし、政府要人や軍幹部なども書き残していることだ。当時を知る人々が生きている間は、そんなことは常識だった。虐殺された朝鮮人の数は確定できなくても、「朝鮮人暴動」なるものが存在しなかったこと自体は確定的なのである。

ところが古賀都議は、常識的にも歴史学的もお話にならないトンデモ陰謀論的な「歴史観」に立って、追悼文を送るなと都知事に求め、都知事はなんとこれに応じたわけだ。虐殺犠牲者への冒涜であることはもちろん、日本の歴史がゆがめられ、日本の歴史研究の蓄積が侮辱されているのである。歴史学者は抗議すべきだ。【加藤直樹】

加藤直樹(かとう・なおき)
1967年東京都生まれ。出版社勤務を経て現在、編集者、ノンフィクション作家。『九月、東京の路上で~1923年関東大震災ジェノサイドの残響』(ころから)が話題に。近著に『謀叛の児 宮崎滔天の「世界革命」』(河出書房新社)。
【書籍】 九月、東京の路上で ~ 1923年関東大震災ジェノサイドの残響 

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