◆かつての誤報記事を検証もなしに「事実」と示す文章を新聞社が書籍化、紙面で肯定的に紹介

産経新聞社から出された工藤美代子氏の著書。多くの記述が90年前の誤報を根拠にしている「トリック本」だ。

だが「根強い」どころか、歴史学の世界にそんな「説」は皆無である。これでは、90年前の誤報・虚報を新聞紙上でそのまま復活させているに等しい。

この記事だけでなく、産経新聞は2013年までの数年間、工藤氏の「朝鮮人虐殺否定論」を紙面上で繰り返し紹介した。

かつての誤報記事を検証もなしに「事実」として示す文章を、新聞社が書籍化し、新聞紙面で肯定的に紹介したのだ。産経新聞は先日、沖縄の交通事故で米兵が日本人を救助したと伝えた記事について「取材が不十分」だったなどとして「おわび」したが、誤報に基づいて虐殺犠牲者を加害者にすり替える本を出版し、それを紙面で宣伝することは、その何倍も大きな過ちではないだろうか。

新聞記者の育成に努めて「新聞の鬼」と称された山根真治郎は、震災直後の「朝鮮人暴動」などの流言報道について「常軌を逸した誤報を重ねて悔を千歳に遺した」「数えるにも苦悩を覚える」と振り返った(『誤報とその責任』内外通信社出版部、1941年)。また、産経新聞の論説委員から転じて東海大学でメディア研究を行った山本文雄教授は、『日本マス・コミュニケーション史』(東海大学出版会、1970年)の中で、「(震災直後は)新聞も根拠のない風説を事実のように報道して恐怖に拍車をかけた」と指摘した。山本教授は、「朝鮮人」流言記事についての論文も書き残している。

産経新聞社はこうした新聞界の先人たちの警告を受け止め、誤報記事を根拠とした「虐殺否定本」を出版した過ちを認めるべきだ。

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