◆ちびまる子ちゃんアニメ映画のコピー「友達に国境はな~い」に憤る国会議員

2015年に東宝と文科省がタイアップしてつくったアニメ映画『ちびまる子ちゃん イタリアから来た少年』のポスターは、この普遍的事実を「友達に国境はな~い」というキャッチコピーで表現した。ところが、このコピーに、のけぞるほど驚愕し、憤る国会議員がいたそうだ。彼は、「こんなコスモポリタニズム(世界市民主義)を認めては日本という国家はなくなってしまう」とまで嘆き、このコピーを採用した文科省の部局に「猛省」を促したという。

多くの人は彼の心配を的外れと笑うのかもしれない。だが私は、この恐れは正鵠を射ていると思う。「友達に国境はない」という事実は、ある種の人たちにとっては非常に恐ろしいことなのである。それは、私たちがどこかの「国民」である前に「人間」であるということを意味しているからだ。

国境を越えて友達に出会うとき、人は自分が普遍的な「人間」であることを知る。場合によっては、その「人間」としての視線を自国に対して向ける人も出てくるだろう。彼らはもう自分の国の政府の言うことだからといって無条件に擁護することはしなくなる。

それどころか、一丸となって戦うべき自国の戦争でさえ、「人間」の視点から見て「間違っている」と思えば反対するかもしれない。実際、ベトナム戦争のときには、米軍の兵士として派遣されながら、人間としてのベトナム人に触れて「この戦争は間違っている」と声を上げる若者が無数に現れたのである。

これは、ある種の人々にとっては国が滅びるに等しい深刻な事態だ。「友達に国境はない」というコピーにのけぞる人々は、その行き着く先を正しく恐れているのである。

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加藤直樹(かとう・なおき)
1967年東京都生まれ。出版社勤務を経て現在、編集者、ノンフィクション作家。『九月、東京の路上で~1923年関東大震災ジェノサイドの残響』(ころから)が話題に。近著に『謀叛の児 宮崎滔天の「世界革命」』(河出書房新社)。

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