東京へ戻った山根博士らは、国会の公聴会(と思われる)で、島で目撃した巨大生物について議員らに説明をした。その際、山根博士は大戸島の伝説に因んで、巨大生物を「ゴジラ」と命名する。ゴジラの足跡から発見したトリロバイト(三葉虫)と残留放射能などを根拠に山根博士はゴジラが出現した理由について「おそらく海底の洞窟にでも潜んでいて、彼らだけの生存を全うして今日まで生き長らえておった。それが、度重なる水爆実験によって彼らの生活環境が完全に破壊され、もっとくだいて言えば、あの水爆の被害を受けたために安住の地を追い出されたと、みられるのであります」と説明した。

議員から「博士、どうしてそれを水爆と関係があると断定できるんですか」という質問に対し、山根博士は「粘土(足跡から発見されたもの=筆者注)のガイガーカウンターによる放射能検出定量分析によるストロンチウム90の発見。(中略)つまり、ゴジラに付着していたこの砂の中に、水爆の放射能を多量に発見することができたのであります」と説明する。そして「これらの物的根拠からして、ゴジラも相当量の水爆放射性因子を帯びているとみることができます」と続けた。

日本国憲法の柱の一つは「平和主義」である。憲法は11130条から成るが、第1章「天皇」に続き第2章「戦争の放棄」がある。そして、第2章は第9条のみで構成されている。他の章は全て複数の条文で構成されていることから見れば極めて特殊な章であると言えるだろう。憲法をめぐる議論ではしばしば第9条が取り上げられるが、第2章あってのものであることを、私たちは考えるべきだ。

そしてゴジラは、まさに核兵器という戦争の道具によって生み出された怪獣なのだ。さらに踏み込んで言えば、その使用によって安住の地を追われた、まさに戦争被害者であるということを、まずは押さえておきたい。

(伊藤宏 新聞うずみ火編集委員 和歌山信愛女子短期大学教授)

★新着記事