◆殺人の責任を被害者に負わせる議論は間違いだ

以上、私なりに気がついた誤りを列挙してきたが、『日本国紀』の虐殺関連記述で最も問題なのは、朝鮮人が震災に乗じて凶悪犯罪やテロを行ったという事実に基づかない記述を通じて、「だから殺された原因は朝鮮人の側にもある」というメッセージを送るかたちになっていることだ。これは「誤り」ではなく「過ち」である。もちろん、当時の日本人の一部に略奪者や放火犯がいたのと同程度には、朝鮮人の中にもそうした人がいた可能性は否定できない。だとしても、朝鮮人であるというだけで多くの人が無差別に虐殺された事件について、その原因が被害者の側にあるかのように語ったり、虐殺を行った者の責任を相対化したりすることは、完全に間違っている。

朝鮮人虐殺事件について正確な知識を得たいと思う方は、例えばyahooの辞書機能で大辞林などの説明を読むか、近所の図書館に足を運んで日本史事典で該当項目を探すのがいいだろう。詳しく知りたい方には、インターネット上で公開されている内閣府中央防災会議の専門調査会報告「1923関東大震災【第2編】」(特に第4章2節「殺傷事件の発生」)を一読することをお勧めする。また、虐殺否定論に興味を持つ方は、私が友人たちと作成したサイト「『朝鮮人虐殺はなかった』はなぜデタラメか」を覗いてみてほしい。

1923年9月、「朝鮮人が暴動を起こした」といったデマを信じた人々によって、多くの朝鮮人が、朝鮮人であるというだけで虐殺された。個別の事柄やその解釈、規模についてはともかく、この史実そのものは否定のしようがない。事件の根底には民族差別があった。差別による暴力の歴史を繰り返させないためには、史実とその教訓を正しく伝えることが必要だ。歴史的事実をゆがめてはならない。

主な参考文献
姜徳相/琴秉洞編『現代史資料6 関東大震災と朝鮮人』(みすず書房、1963年)
琴秉洞編『関東大震災朝鮮人虐殺問題関係史料 4 』(緑蔭書房、1996年)
内閣府中央防災会議 災害教訓の継承に関する専門調査会「1923関東大震災【第2編】」
奥平俊蔵著/栗原宏編『不器用な自画像』(柏書房、1983年)

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加藤直樹(かとう・なおき)
1967年東京都生まれ。出版社勤務を経て現在、編集者、ノンフィクション作家。『九月、東京の路上で~1923年関東大震災ジェノサイドの残響』(ころから)が話題に。近著に『謀叛の児 宮崎滔天の「世界革命」』(河出書房新社)。