初の長編作品に挑んだ「主戦場」の監督、ミキ・デザキさん(大阪・シアターセブンにて撮影・栗原佳子)

◆複雑な問題を解決する第一歩は「とにかく相手の話を聞くこと」

自身が幼い頃から直面してきたレイシズムの構図にも重なったという。

「アメリカではアジア系に対するレイシズムはあまり認識も議論もされず、黙って自分の中に苦しみを押し込めておくしかありませんでした。この辛さを言語化し、問題化してもらえていたら、どれほど救われたでしょうか」。

英語指導助手時代、「日本国内のレイシズム」をテーマに授業をしたり、動画をユーチューブに投稿したりしたのも、そのような経験から。しかし、その動画は炎上、バッシングにさらされ個人情報まで暴かれたという。

デザキさんが「慰安婦」問題に詳しかったわけではない。リサーチに1年あまり費やし、複雑な問題を解決する第一歩は「とにかく相手の話を聞くこと」だとして、論争の中心にいる人物たちへのインタビューを試みた。

例えば、植村隆さん、歴史学者で「慰安婦」問題研究で知られる吉見義明さんや林博史さん、「女たちの戦争と平和博物館」の渡辺美奈さんら。

逆の立場からはジャーナリストの櫻井よしこさん、テレビタレントのケント・ギルバートさん、衆院議員の杉田水脈さん、「新しい歴史教科書をつくる会」の藤岡信勝さんら。

取材は日本国内だけではなく、韓国、アメリカへも及び、3カ国であわせて、およそ30人のインタビューを収録した。アメリカはカリフォルニア州グレンデール市をはじめ複数の都市で「慰安婦」を象徴する少女像が建設されており、否定派が「歴史戦の主戦場」と位置付ける国である。

元「慰安婦」の遺影を抱きデモをする韓国の女性たち© NO MAN PRODUCTIONS LLC

「慰安婦」の人数として引き合いに出されてきた「20万人」という数字は正しいのか。「強制連行」はあったのか。「性奴隷」という表現は実態に即しているか。日本政府の謝罪と法的責任とは何か――。

「慰安婦」問題をめぐる代表的な争点について、デザキさんは対極にある主張をスクリーン上でぶつけあい、理詰めで分析・検証していく。重いテーマだが、ニュース映像なども織り交ぜつつ、斬新な編集でテンポよくさばき、観る者を引きつける。 初の長編作品。

編集技術などすべて独学だという。

「正直、何が正しいのか正しくないのかわからなくなった時期もあります。常に、『知っていること』『信じていること』を左右両側から揺るがされる経験をしました。それを観客にも感じていただけたらと思います」

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◆ドキュメンタリー映画「主戦場」

4月27日、第七芸術劇場、京都シネマ、名古屋シネマテークでそれぞれ、デザキ監督の舞台挨拶。東京・イメージフォーラムで公開中。各地で順次公開。

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