<現地報告>アフリカ最後の植民地・西サハラを行く(1) >>

商機を求めてやってくる人々で賑わうエルアイウンは、一見すると穏やかなサハラの町だ。しかし、この穏やかさは、強い力で統制された静けさでもあった。西サハラ最大の都市エルアイウンに、3つの特徴を見た。

◆モロッコにはない、エルアイウンの3つの特徴

西サハラ最大の都市エルアイウンには、モロッコの町と比べると明らかに異なる特徴が、三つある。

町に、外国人がいない。
モーリタニアやセネガルなど、アフリカ近隣諸国からの来訪者は見かけることはある。しかし、欧州やアジアなど、アフリカ以外の地域から来た来訪者を見かけることは、極めて少ない。今回一度だけ、中国の方から声をかけられたことがあった。彼は、アジア人である私を見かけたことがあまりにも珍しく、ついこちらに声をかけたと話していた。アフリカの隅々に進出する中国人が驚くほど、他地域からの来訪者は少ない。

たまに、欧州人と思われる人を見かけることがある。
足取りを目で追っていくと、真っ白い自動車に乗り込んでいくことが多い。自動車には、釣竿のように長く伸びたアンテナが付いている。ドアには「UN」の文字。国連関係者だ。
国連は1991年、西サハラの独立を求めるポリサリオ戦線とモロッコ軍の停戦監視を主務とするMINURSO(国連西サハラ住民投票監視ミッション)を設立。その本部が、エルアイウンに置かれている。酒の飲める飲食店、高級ホテルなど、外国人がいそうな場所にはいつも、MINURSOの車両があった。MINURSOの存在が、エルアイウンが係争地であることを知らしめているとも言えよう。

国連車両と、モロッコ軍の兵士。エルアイウンに限らず、西サハラ全域のいたるところで兵士を見かける。もはや日常の風景といってもいいほどだ。この点は、昔も今も変わらない(エルアイウン・西サハラ/El Ayoun, Western Sahara 2003 撮影:岩崎有一)

3年前にカサブランカから越して来たホテルの女性は、こう話していた。
「私はカサブランカに生まれ育ちましたが、もうカサブランカに戻る気はありません。ここには、落ち着いた暮らしがありますから」と話し、さらに続けた。
「カサブランカでは、夜10時以降にひとりで出かけたことはありません。危ないですから。でもここでは、夜になっても、買い物をしたり町歩きを楽しむことができます。」
エルアイウンは、穏やかな街なのですねと言って相槌をうつと、彼女は説明を加えた。
「ええ。エルアイウンには、辻という辻に、警官がいるでしょう。彼らは、ポリサリオがテロや破壊行為を行わないよう、常に見張っています。だから、この町はいつどこにいても安心なのです。モロッコの大都市では、こうはいきません。もう、(カサブランカに)戻る気はありません。」

旧市街の夜。夜の一人歩きをしていても不安を感じることはない。夜遅くまで、談笑を楽しむ女性たちの姿があちこちにあった(エルアイウン・西サハラ/El Ayoun, Western Sahara 2018 撮影:岩崎有一)

確かに、大通りを歩いていようと、市場にいようと、市街地の路地裏であろうと、どこにいても警官や軍人が立っているのを目にする。警官と軍人がペアでいることも多い。警官や軍人を見ずに100m歩けることはないほどに、あちこちで監視の目が光っている。

ポリサリオは非戦の姿勢を徹底しており、ポリサリオとモロッコとの停戦合意以降、モロッコや西サハラでテロ行為が行われたことなどない。モロッコが監視しているのはポリサリオではなく、民衆と、西サハラ事情を知ろうとする外国人だ。モロッコの占領政策に異を唱える民衆の動きと、西サハラに暮らす人々の声を外部に伝えようとする外国人の動きを、モロッコは常に警戒している。MINURSO本部という「外部との接点」があることも理由なのだろう。西サハラの他の町と比べても、エルアイウンでの監視の目は、特に厳しい。
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