2019年6月の人権理事会にてデビッド・ケイ氏と筆者。

◆菅官房長官は勧告を拒絶

日本政府への勧告全11項目は、放送法4条の改定など、報道の自由に関する勧告をはじめ、特定秘密保護法の適切な執行のための専門家による監視組織の設置、政治活動を不当に制限するような公職選挙法上の規定の廃止、包括的差別禁止法の制定、沖縄における平和的な集会や抗議活動の保護などである。そのうち9項目が未履行と判断され、残り二つも「一部履行」「評価できるだけの十分な情報がない」ということで、「履行」と判断された項目はゼロであった。

メディアの独立性について、フォローアップ報告書は、2016年の報告書と同様、日本政府が放送局に電波停止を命じる根拠となる放送法第4条が事実上放送局への規制になっていると指摘し、「政府に批判的なジャーナリストらへの当局者の圧力を控えるべきだ」と報告した。

菅義偉官房長官は、6月5日の会見でケイ氏のフォローアップ報告書は「根拠不明で不正確。受け入れられない」と反発した。

また日本政府は、今回の報告書に対して書面で以下のように反論している。(※6)
「メディアの独立を含む表現の自由は日本国憲法21条によって完全に保証されている。…日本政府は表現の自由などの基本的な価値を常に擁護してきた。」「日本政府は、日本の表現の自由の状況に関する特別報告者の個人的見解は理解するが」「ドラフトレポートに見られる見解は受け入れられない。それは2016年の報告書と同様、不正確で根拠のない主張に基づいているからである。」「さらに、ドラフトレポートはこれまで日本政府が何度も説明してきた政府の立場を反映していない。」「特別報告者が不正確で根拠のない内容を多く含んだ報告書を作成したことは遺憾である。特別報告者にその主張を立証する明確な証拠を示すように要求する。」

2019年6月26日の人権理事会本会議で、ケイ氏は、世界で悪化しているジャーナリストへの圧力について懸念を報告した。その際、特に日本だけについての言及はなかったが、それにも関わらず日本政府は答弁を行い、「日本国憲法21条は表現の自由を保障している。日本政府の説明にも関わらず、特別報告者がそれを反映せず、根拠のない誤った情報に基づく報告書を作成したことは遺憾である」と繰り返している。

この日の人権理事会本会議の会場には、日本のメディアはNHK、共同通信、日経、読売などが来ていたが、ケイ氏の報告を逃さず報道するために身構えて待機していたそうである。(第2回を読む>>

※1 表現の自由に関する国連特別報告者、フォローアップ報告書(2019年6月)
http://ap.ohchr.org/documents/dpage_e.aspx?si=A/HRC/41/35/Add.2
※2 「高市総務相 電波停止に言及 「政治的公平欠く放送」続けば」毎日新聞2016年2月9日
https://mainichi.jp/articles/20160209/dde/007/010/032000c
※3 日本のメディアの問題についての記事
ガーディアン紙 2016年2月17日
https://www.theguardian.com/world/2016/feb/17/japanese-tv-anchors-lose-their-jobs-amid-claims-of-political-pressure
エコノミスト 2016年2月18日
https://www.economist.com/asia/2016/02/18/anchors-away
※4 2016年の調査に関する最終報告書 (2017年6月)
https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000318480.pdf
※5 フォローアップ報告書作成に関する質問への回答
https://www.ohchr.org/EN/Issues/FreedomOpinion/Pages/FollowUpReportCountryVisits.aspx
※6 フォローアップ報告書に対する日本政府の反論
https://www.ohchr.org/Documents/Issues/Expression/FollowUPVisits/2019/State_comments_Japan.pdf

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藤田早苗(ふじた・さなえ)
エセックス大学人権センターフェロー。同大学にて国際人権法修士号、博士号取得。名古屋大学大学院修了。秘密保護法、報道の自由、共謀罪等の問題を国連に情報提供、表現の自由特別報告者日本調査訪問実現に尽力。