◆前回改正でつぶされた管理基準

さらに同省はアスベスト大気濃度調査検討会で解体・除去作業における測定方法や基準を検討させた。

同検討会は一般大気中の(アスベスト以外も含む)総繊維数濃度は概ね1本/L以下のため、「石綿繊維数濃度が1本/Lを超過する場合は、明らかに石綿の飛散が想定される」と判断。これを踏まえて、2013年10月、漏えい監視の管理基準は作業区画・敷地境界で「石綿繊維数濃度1本/Lが適当と考える」との報告書をまとめている。

敷地境界や作業区画境界に生涯ずっと居る人はいないため、生涯曝露で10万人に1人程度の中皮腫死亡リスク「石綿繊維数濃度0.1本/L」を直接採用するのは過剰規制ではないかとの配慮や、測定・分析上の技術的課題から以前の10本基準との間を採ったのだとみられる。

同省はこれを根拠に作業区画・敷地境界で「石綿繊維数濃度1本/L」との管理基準を省令などで定める方針だった。

しかし、結局実現しなかった。それはなぜか。浅野教授はこう振り返る。

「厚労省ですよ。作業区画境界は労働現場との一点張りでした」

労働現場は労働行政を所管する厚労省の縄張りのため、環境行政が口を出すのは越権行為というわけだ。しかし、アスベスト排出源たる労働現場できちんと規制・管理されていない以上、作業区画境界のすぐとなりに居る場合がある一般人の保護を目的にその「境界」で大防法の規制をすることは環境行政でも可能のはず。だが、結局厚労省につぶされたのだという。

水面下での出来事のため両省とも認めないが、こんな経緯があった。環境省は管理基準の法的位置づけまで踏み込むことができなかったため、マニュアルに「目安」として書き込み、現場における自主的な管理を求めたのである。

つまり、作業区画・敷地境界で「石綿繊維数濃度1本/L」との管理基準は、前回法規制までは至らなかったものの、複数の専門家会合で妥当性が認められていたのである。それをきちんとした議論もなく約10倍に突如緩めるというのはいかがなものか。

さらにいえば、同省はかねて大防法でアスベスト除去などにおける漏えいの基準を設けていないことについて、「法的な基準がないということは一切漏らしてはならない、1本たりとも飛ばしてはならないということです」と説明してきた。

こうした経緯や説明からすれば、「10本以下なら飛散させてもよい」といわんばかりの今回の方針案は30年前への逆行と見えてしようがない。

アスベストの外部漏えいの主原因である負圧除じん装置排気口や(作業員などが現場に出入りするのに使う)セキュリティゾーン出入口の測定を除外したことにいたっては論外だ。外部でアスベストを検出しても漏えい原因がわからなくては「近くの別の現場でしょう」と言い返されて終わりである。

管理基準を約10倍に緩め、もっともアスベストが漏れやすい場所はあえて測定しない。これではアスベストを外部に飛散させる作業を認める法改正といわれても仕方あるまい。こうした姿勢は同省における過去の対応とも齟齬が生じているわけだが、経済性を損ねる内容に消極的な意見を繰り返す産業界に配慮し、形だけの法改正とする方針を固めたのだろうか。