(参考写真)公設市場で商売する女性。衛生帽を被るのが市場のルール。水道などのインフラは劣悪だが、衛生観念は徐々に向上。2013年6月両江道にて撮影アジアプレス

◆病院を現地調査してみたところ

北朝鮮政府は3月22日時点で、新型コロナ肺炎の感染者はゼロとの発表を続けている。その一方、国内では感染者、死者が各地で出ているという噂が途切れることなく話されている。

そのどちらについても、真偽は確認しようがないが、医療体制が劣悪でありながら、北朝鮮政権なりにコロナ肺炎に対する防疫、予防に神経を使っていることが、アジアプレスの調べで分かった。北部に住む複数の取材協力者が病院、診療所関係者に会い、実行されているコロナ対策について調べ、3月20日に報告してきた。

◆電話で遠隔診察、症状出た人の動線把握も

両江道(リャンガンド)の協力者Aさんは、恵山(ヘサン)市中心部のある診療所を訪れて調査した。この診療所は職員が院長含め3人。そこに道の防疫所から1人、医科大学の実習生3人が応援に派遣されていたとして、次のように報告してきた。

「患者が病院に来る前に、あらかじめ症状について電話で聞き、それが、結核の疑いや咳、発熱など風邪の症状がある場合は来院させず、往診したり電話で解熱剤や風邪薬を処方している。患者はその薬を薬局に行って購入する。現在、各地の病院に入院しているのは、手術を要する患者や骨折患者などだけとのことだった」

Aさんと他の協力者の調査をまとめると、各地の病院、診療所では次のような手順でコロナウイルス対策を行っている。
・風邪の症状がある患者がいた場合は、まず防疫所に連絡。
・患者の居住地、勤務先と行動を記録した登録カードを作成する。
・患者が貿易会社勤務や中国国境の鴨緑江近くに居住する場合は要注意とする。
・往診などで結核や風邪の症状のある患者を診る際は、2メートル以上距離を置く。
・これらの処置を、対策拠点になっている市病院に毎日報告する。

◆中国を徹底警戒、「汚物破棄は銃撃」と警告

医療関係者への感染を防ぐとともに、症状のある人の動線を把握しようとする合理的な取り組みだと言える。だが、このような体制が整ったのは2月後半になってからのようだ。

なお、鴨緑江近くの居住者を要注意としているのは、コロナウイルスが蔓延した中国に対する強い警戒からである。北朝鮮当局は、2月7日頃から住民が洗濯、水汲みなどのために鴨緑江辺に出ることを禁止している。国境警備隊にも鴨緑江の水利用も厳禁しており、軍人たちは民家に水を使わせてもらっているそうだ。

2月末には、北朝鮮の国境警備当局が、鴨緑江への汚物廃棄、密輸行為には警告なしで発砲すると中国側に通告している。

協力者たちによれば、「感染者ゼロ」という金正恩政権の宣伝もあって、「両江道ではまだ感染者が出ていないとうのが住民たちの認識」だという。
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