新型コロナウイルスの感染拡大をめぐって緊急事態が宣言されるなか、アスベスト(石綿)対策をめぐり国会で政府側からトンデモ答弁が相次いでいる。なんと法に規定がなくても罰則の適用が「可能」と憲法違反としか思えない主張をしているのだ。(井部正之/アジアプレス)

4月7日の衆議院環境委員会で手元のカンペを丸読みして答弁する佐藤ゆかり副大臣(衆議院インターネット審議中継より)

◆法規定なしで直罰「可能」と答弁

問題の答弁があったのは4月7日の衆議院環境委員会。建物などの改修・解体時におけるアスベストの飛散が相次ぐ状況を改善するために提出された大気汚染防止法(大防法)改正案の審議中である。

大防法ではいくらアスベストを飛散させて周辺の人びとに吸わせても、形式的に指導や命令に従うふりをすれば罰則の適用ができないとの欠陥があり、かねて批判されてきた。事実、工期優先でアスベスト対策をいっさい実施しなかったとしても、罰則が適用された事例は1件もない。

同法では、作業時の基準を守るよう求める命令に違反した場合の罰則は定められているが、作業が不適正だったこと自体への罰則がない。そのため命令違反がない限り罰則の適用ができないというわけだ。

しかも仮に罰則が適用できても6カ月以下の懲役または50万円以下の罰金と刑罰が緩いこともあって抑止力として機能しておらず、アスベストを周辺にまき散らす「無差別テロ」のような工事が頻発している。

こうした状況に対応するため、環境省は命令違反がなくても不適正な作業に対して直接罰則を適用できるようにする「直罰規定」の創設を法改正の柱の1つに掲げている。

だが、この直罰規定がきわめて限定的なのだ。情けないことに大手ゼネコンによる露骨な手抜き工事に対しても適用できない代物である。

この直罰規定をめぐって国会で論戦が繰り広げられた。

大防法の改正案について取り上げたのは共産党の田村貴昭議員。

今回創設する直接罰の内容を尋ねたところ、佐藤ゆかり・環境副大臣は、「多量の石綿を飛散させる可能性がとくに大きい違反行為に対し、直接罰を適用する。具体的には吹き付け石綿等レベル1~2の建材の除去作業において、作業場を隔離しなかった場合や、作業時に集じん・排気装置を使用しなかった場合等を規定しております」と答弁した。

吹き付けアスベストなど「レベル1~2」に分類される建材の除去では、吹き付け材が使用された場所以外をプラスチックシートと粘着テープでふさいで密閉に近い「隔離養生」あるいは「隔離」と呼ばれる作業空間をつくる。そのうえで強力な換気扇のような装置で場内の空気を吸い出し、圧力を外部より低く保ちつつ、装着されたフィルターでアスベストを除去する「集じん・排気装置」の使用により、清浄な空気だけを外部に排出する。さらに現場の出入口には、除去作業時に労働者がアスベストを洗い流すエアシャワーや更衣室を設置した「セキュリティゾーン(前室)」を配置する。

隔離と集じん・排気装置、そして前室の3つはこうした除去工事で必須であり、いずれか1つでも欠けてしまえば、間違いなく外部にアスベストを多量に流出させる。

しかし、佐藤副大臣の答弁では直接罰の適用は「隔離」と「集じん・排気装置」の使用がない場合としており、「前室」の設置・使用については言及されていない。直罰規定を設けた改正案の条文(第18条の19)には「前室」の記載がないからだ。

じつは大成建設が2019年5~6月に鹿児島市の百貨店「山形屋」で実施したのが工期短縮のために「前室」を設置しなかった手抜き工事で、計21日間にわたって営業中の百貨店内でアスベストをまき散らした「無差別テロ」のような悪質な“事件”である。

改正案には「(吹き付けアスベストなど)当該特定建築材料の除去を行う場所を他の場所から隔離し、除去を行う間、当該隔離した場所において環境省令で定める集じん・排気装置を使用する方法」をしなかった場合に直接罰の対象となると記載している。「前室」については一切記載がなく、当然ながらその設置・使用は「法」側で義務づけられていない。よって上記の大成建設の悪質手抜き工事が再び起きても直罰規定による罰則適用はできないことになる。

また「隔離」が破れたり、「集じん・排気装置」の管理が悪いなどによってアスベストが外部に飛散した場合についても直罰対象として規定されていないことから同様だ。

ところが、佐藤副大臣は「前室を設置しなかった場合や集じん・排気装置の管理が悪い場合についても規定されている措置を適切に行っていないとみなし、直接罰の対象になる」と適用可能との見解だ。

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