共同声明に名を連ねた国連特別報告者のアニエス・カラマール氏(右)とデビッド・ケイ氏(左)。2019年6月27日撮影藤田早苗

◆「コロナ非常事態でメディア規制」を懸念

世界各国でコロナに関する緊急事態宣言が発表される中、非常事態を権限拡大に「利用」する政権も出てきている。例えばハンガリーでは政府の権限を拡大する非常事態法が成立。首相は自身に近い人物によるメディアの買収や、政権に好意的なメディアへの優遇を通して言論圧力を続けており、非常事態法の下、メディア規制が強まると人権団体は懸念する。

日本では「緊急事態宣言」発動を可能にする特措法が成立したが、首相が必要な指示を出せる「指定公共機関」にNHKが含まれている。この対象は政令で拡大可能で、民放も含め報道機関は政府の指示下に置かれうるため報道が大本営化し、知る権利の侵害が危惧される。

そのような非常事態での人権侵害の危険性を危惧して、3月16日に17の国連の人権専門家(特別報告者とワーキンググループ)が「緊急対策の濫用で人権を抑圧してはならない」とする声明を発表した。彼らは国連人権理事会から任命された独立の専門家だ。世界各国に向けた声明の警告は日本にもあてはまる。(藤田早苗 エセックス大学ヒューマンライツ・センター)

 

<新型コロナ感染症>国家は緊急対策の濫用で人権を抑圧してはならない
国連専門家共同声明  2020年3月16日 ジュネーブ

国連の人権専門家らは本日、新型コロナウイルスの流行への対応で各国が安全保障のための手段を濫用しないよう呼び掛け、緊急事態における権力行使が、反対意見を抑えるために使われるべきではないことをあらためて強調した。

人権専門家らは
「健康をめぐる現在の危機が深刻であると認識し、大きな脅威に対する非常権限の行使が国際法上許容されていることも認めるが、国家に対しては、緊急の新型コロナウイルス対策がいずれも、妥当かつ必要で、差別的でないものでなければならないことを強く指摘する」
と述べた。

このような指摘は、新型コロナウイルスの流行への対応において、人権がその中心に位置づけられるべきであるとする最近の国連人権高等弁務官の呼び掛けを反映している。国連の専門家らによると、健康や安全といった理由の如何に関わらず、緊急事態の宣言については国際法に明確な手引きが明記されている。

「非常権限の行使は公的に宣言されるべきであり、移動や、家族生活、集会に関する基本的人権が著しく制限される場合においては、関係する条約機関へ通告されるべきである」

「さらに、新型コロナウイルスの流行に基づく緊急事態宣言は、特定の集団やマイノリティー、個人を標的とするために行使されるべきではない。またそれは、健康を守るという口実で弾圧的な措置を隠蔽したり、あるいは人権擁護者を沈黙させたりするために使われてはならない」

そして
「ウイルス対策で課される制約は、正当な公衆衛生上の目的に基づくべきで、反対意見を鎮圧するために行使されてはならない」

国家や安全保障機関のなかには、手っ取り早い対応を可能にする非常権限の行使が魅力的だとみなすところもあるだろう、と専門家らはみている。

「過度の権力が法律や政治のシステムに組み込まれるのを阻止するために、規制は狭く規定され、公衆衛生を守るための介入手段は最小限でなければならない」

最後に、ウイルス感染が終息に向かっている国においては、当局が生活を日常に戻すために努力すべきであり、無期限に日常生活を抑制する目的での非常権限の過剰な行使は避けなければならない、と彼らは言う。

「法の支配と人権の保護とともにある健全な社会の出現を促進するために、我々は各国に対し、人権に基づいたパンデミック抑制の手段を断固として維持することを勧める」
と述べた。

反テロに関する特別報告者 Ms Fionnuala D. Ní Aoláin
略式裁判による刑の執行 Ms Agnes Callamard
表現の自由に関する特別報告者 Mr David Kaye
人権擁護者の状況に関する特別報告者 Mr Michel Forst
集会結社の自由に関する特別報告者 Mr Clément Nyaletsossi Voule
健康への権利に関する特別報告者 Mr. Dainius Pūras
教育への権利に関する特別報告者 Ms Koumbou Boly Barry
プライバシーの権利に関する特別報告者 Mr Joe Cannataci
思想信条の自由に関する特別報告者 Mr. Ahmed Shaheed
発展の権利に関する特別報告者 Mr Saad Alfarargi
居住の権利に関する特別報告者 Ms Leilani Farha
水と公衆衛生への人権に関する特別報告者 Mr Léo Heller
人権と国際連帯に関する独立専門家 Mr Obiora C. Okafor
民主的かつ公平な国際秩序の促進に関する独立専門家 Mr Livingstone Sewanyana
司法の独立に関する特別報告者 Mr Diego García-Sayán
恣意的拘禁に関するワーキンググループ Mr. José Antonio Guevara Bermúdez , Ms. Leigh Toomey , Ms. Elina
Steinerte , Mr. Seong-Phil Hong and Mr. Sètondji Adjovi;
失踪に関するワーキンググループ Mr Luciano Hazan , Mr Tae-Ung Baik Ms Houria Es-Slami, Mr Bernard
Duhaime and Mr Henrikas Mickevicius

訳 藤田早苗、翻訳チーム

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藤田早苗(ふじた・さなえ)
エセックス大学人権センターフェロー。同大学にて国際人権法修士号、博士号取得。名古屋大学大学院修了。秘密保護法、報道の自由、共謀罪等の問題を国連に情報提供、表現の自由特別報告者日本調査訪問実現に尽力。