特殊ながん、中皮腫だけで年間1500人超、肺がんなどを加えると日本国内で年間2万人近くの命を奪っているといわれるアスベスト(石綿)。現状では新型コロナウイルスよりはるかに多くの死亡者を出していることになる。その被害発生防止を目的とした大気汚染防止法(大防法)改正案は環境委員会で唯一の提出法案。かつ“不急”なのに審議が驚くほど短いのだ。新型コロナの陰でまったく報じられない「重要法案」をめぐるひどい国会運営の実態をお伝えする。(井部正之/アジアプレス)

5月15日の衆議院環境委員会で答弁する小泉進次郎環境大臣。ひたすら手元のペーパーを読み上げるのみ(衆議院インターネット中継より)

◆参院でも審議3時間予定

大防法改正案をめぐっては法案提出前から「抜本改正にほど遠い」と問題だらけであることが専門家から指摘されてきた。しかも同改正案は今国会で環境委員会に提出された唯一の法案である。

当初、野党側は「環境委で唯一の提出法案だからじっくり審議できる」として、参考人質疑も要求した。

ところが、与党側が拒否。結局、衆議院環境委は5月15日、参考人質疑もなく、審議わずか3時間半。採決では修正案を提出した立憲民主・国民・社保・無所属フォーラム(立国社)も賛成に回り、共産党を除く賛成多数で通過。本会議にいたっては質疑もなく3分で原案通り可決された。

衆院環境委で大防法改正案の「欠陥」を積極的に追及してきた共産党の田村貴昭議員は「立国社と私で参考人質疑を求めたが、与党から拒否されました。新型コロナ禍で呼ぶわけにいかないというのが表向きの理由ですが、(5月20日の)経済産業委員会など参考人質疑している委員会もある。会期は6月まであり、1件だけの法案なので十分時間はあった。不十分な審議で突っ走った与党の責任は重い」と批判する。

同じく拙速な審議が参議院でも予定されている。すでに与野党の筆頭理事による協議で5月28日の環境委は「3時間2分」の質疑で採決する方針だ。質疑時間は回答も含め野党に各25~35分しかない。これでは突っ込んだ質疑などできない。

野党関係者からは「多数の被害者を出しているアスベスト規制の強化を図る大防法改正案は重要法案で“不急”。環境委は提出法案が1本しかないのだから6月にも十分会期がある。丁寧に議論するべき」との批判が上がっている。

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