(参考写真)お釣りを中国1元札で返す靴下売りの女性。2013年10月両江道にて撮影アジアプレス

◆外交官のドル使用も制限、平壌住民に大打撃か

「今ではすっかり様相が変わり、市場では内貨だけが使用されるようになった。没収されるのが怖いから」と、各地の取材協力者は声を揃える。一方で、地方の銀行では今も両替業務を続けている。ただし「トンデコ」のレートより5~8%も悪いのだという。

平壌に駐在する外交官や国際機関の職員からも、10月末から外貨使用統制が始まったという情報が漏れ出てきている。駐平壌ロシア大使館のフェイスブックには、外国人専用商店で米ドルが使用できなくなったと書き込みがあった。RFA(自由アジア放送)や、北朝鮮情報専門メディアのNK NEWSも同様の情報を伝えている。

外貨使用がもっとも活発なのは平壌である。突然、20~30%も外貨の価値が目減りしたわけだから打撃も大きいはずだ。北部地域に住む取材協力者に、平壌の状況を調べてもらった。

「平壌の市場や商店でもドルや元で値付けされていたのが、今ではすべて内貨になっており、ドルで暮らしていた人たちには下落の衝撃が大きいそうだ。資金力のない業者や手持ちに余裕のない人たちは、仕方なく外貨を売っている。平壌でも当局にばれて外貨を没収されることが頻繁にあるそうだ」

北朝鮮の外貨稼ぎ機関の多くは平壌に集中している。コロナ禍の影響でどこも不振を極めており、少なくない貿易会社が業務停止状態だ。今回の外貨の下落は、外稼ぎに関わって来た富裕層とその周辺に、追い打ちをかけるような打撃を与えるだろう。

2020年1~9月の対中貿易の推移。貿易不振は数字に如実に現れている。中国税関総署の統計を整理した(製作アジアプレス)

◆コロナで外貨収入に大打撃

2017年に国連安保理で経済制裁が加重され、18年の対中輸出は前年比で86%減った。19年は非制裁品目の輸出に力を入れていくぶん回復を見せたが、今年1月末に新型コロナウイルスの流入を遮断するために国境を封鎖して貿易はほとんど止まった。

1-9月の対中輸出は、前年同期比で7割以上減った。前述したように、経済制裁で大幅に落ち込んだ数値からの減少であり、2016年比では約95%減にもなる。コロナのために観光収入も途絶えた。労働者派遣による収益も、中国内のコロナの影響で低迷していると考えられる。北朝鮮の外貨収入が大打撃を受けているのは間違いない。また、必需品の輸入にも支障が出ているはずだ。

「自動車の部品、装備が中国から入って来なくなり、動かなくなった車両が増えている」(新義州(シニジュ)市の取材協力者)

「電気供給が悪くなった。貿易が止まって発電所の機械が補修できず電力生産が落ちていると配電部の幹部が言っていた」(咸鏡北道(ハムギョンプクド)の取材協力者

◆ウォン急騰は人為的操作か
北朝鮮としては、一刻も早く中国との貿易を再開したい。幸い中国は劇的にコロナ流行が収まり経済活動を再開させている。新義州市の協力者は、幹部から漏れ出て来た話として、「年末年初から徐々に貿易再開に踏み切る準備が始まった」と伝えてきている。中国でコロナ再流行という事態がなければ、1月に開催予定の第8回労働党大会前後に貿易再開に踏み切る可能性がある。

貿易再開に向けた金正恩政権の準備、それが突然のウォン高の理由だというのが筆者の見立てだ。必需品の輸入のために外貨が必要な当局が、国内での外貨の使用を厳禁して使い勝手を悪くしたうえで、朝鮮貿易銀行が設定する交換レートを操作し、有利な条件で外貨を集めている可能性が高いと見ている。

しかし、ウォンの実力を無視した人為的な交換レート設定は長続きしないのではないか。貿易再開が確認されれば、国内で外貨需要が一気に高まり、闇取引が活性化してウォン安に振れるのではないかと予測している。(石丸次郎/カン・ジウォン)

※アジアプレスでは中国の携帯電話を北朝鮮に搬入して連絡を取り合っている。