(参考写真)検問で目を光らせる取り締まりの警察官。2011年1月平安南道 撮影キム・ドンチョル(アジアプレス)

 

金正恩政権が厳しい新型コロナウイルス対策を始めた2020年1月以来、住民統制を格段に強化してきたが、とりわけ「非社会主義・反社会主義行為」とみなされた行為については、逮捕、拘留、僻地への追放など、弾圧の嵐が吹き荒れている。「過激化する人民統制」の実態についてシリーズで報告する。第1回目は、取り締まりに猛威を振るっている密告褒賞金の制度化について。生活苦の中で現金目当てに知人の「不都合」を通報する行為が横行し、殺伐とした空気が広がっているという。(カン・ジウォン/石丸次郎

◆9月から全国で実施か

「褒章金が欲しくて通報する人が大勢現れた。暮らしが苦しいからだ。捕まる人もたくさん出ている。住民同士が互いの顔色をうかがうようになり、もう親族すら信じられなくなった」

現地の重苦しく陰鬱とした空気を、咸鏡北道(ハムギョンプクド)の都市部に住む取材協力者がこう伝えてきた。12月初旬のことだ。

この褒賞金は、いうまでもなく密告奨励のために当局が発案・実行している制度だ。生活苦境が深まり、目先の金を得るために、一部の住民は積極的に他人のあらを探して通報する。人々の間には疑心暗鬼が広がり、隣近所や親戚間でも互いに遠ざけたり、諍(いさか)うことが増えたという。

この報告が入った後、アジアプレスでは各地で確認調査を行った。感鏡北道の清津(チョンジン)、会寧(フエリョン)、茂山(ムサン)の他、両江道(リャンガンド)、平安北道(ピョンアンプクド)で、密告褒章金制度は9月から始まっており、最近になって絶大な「効果」をあげていることが分かった。全国で実施されているものと思われる。

◆密告褒章制度の運営実態

協力者たちの調査によると、褒賞金制度の規則は次のようなものだ。

・主管しているのは、「非社会主義・反社会主義掃討作戦連合指揮部」(以下、「連合指揮部」)。

・褒賞金は5000ウォンから20万ウォンまで支給。捺印、サインして金を受け取る。
※100円は約4300ウォン、コメ1キロは約4700ウォン

・役所などに「申告箱」が置いてあり、通報者は密告内容に自分の名前、住所、電話番号を書いて投書する。直接「連合指揮部」に行って通報することもできる。

・通報者の個人情報は非公開で保護されると謳っている。

・褒賞金は実際に正しい情報であった場合に支給。噂だけでは不可で、具体性的な写真や録音、現場を見たなどの確度の高いものが求められる。

「連合指揮部」は、「反動思想文化排撃法」が制定された2020年12月前後に発足したとされる組織で、北朝鮮式社会主義から逸脱した経済活動や、韓国など外部世界のドラマや歌などコンテンツの視聴や保持、配置された職場からの逸脱や、他地域への無断移動、中国の携帯電話の使用、覚醒剤の服用や売買、売買春など、秩序違反を幅広く取り締まる部署だ。党機関や警察、検察などから選抜された人員で構成される。

◆密告褒章の具体例とは

では、どのような「罪」あるいは不都合について密告が褒章されているのだろうか。協力者たちから届いたケースを紹介したい。

「不法な方法での金儲け、偽の職場登録、国境警備隊に頻繁に接触したなどを通報して、1~3万ウォンを受け取った人が周囲にいる」(両江道)

「16歳の学生が友人の家で登録していないパソコンと映画があったのを見て通報して1万ウォンをもらったケースがあった」(感鏡北道)

「市内のある地区では、使えなくなった中国の携帯電話が置いてあるのを隣家の女性が見て通報し褒賞金20万ウォンを受け取った事件があった。密告された人は出党(労働党からの除名)、解職されて僻地に追放された」(感鏡北道)

「役人が言うには、通報のうち金が支給されるのは30~40%くらいで、残りは証拠不十分で無効だったそうだ。支給は『トンピョ』ではなく現金で支払っている」(平安北道)
※「トンピョ」とは、財政難の金正恩政権が紙幣の印刷中断に追い込まれ、8月末~9月にかけて発行した臨時金券のこと。

「『コチェビ』(浮浪者)までが褒賞金をもらおうと、市場で静かに話しても、近くに来て聞き耳を立てている」(感鏡北道)

「『連合指揮部』は黙って座っていても通報がどんどん入ってくる。その処理で仕事が溢れるほどだそうだ。暮らしがしんどいから、通報して金を得ようとする人が現れる」(両江道)
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