(参考写真)恵山市場の入り口。コロナによる国境封鎖で中国産品が枯渇しているという。2013年7月撮影アジアプレス

情報が少ない北朝鮮の経済動向を知る上で欠かせないのが市場の動向である。いったい、何がいくらで売られていて、それはどこで生産されたものなのか。この基本的な情報すら把握が困難なのが現状である。アジアプレスでは、4月中旬に北部の4都市の公設市場で調査を行った。そのうちデータが揃い、確認作業ができた2地点の状況を報告する。第1回目は石鹸や衣料品など、北朝鮮で工業製品と呼ばれる生活必需品について。(石丸次郎/カン・ジウォン)

◆厳しい調査環境

調査を担ったのは北部地域に暮らす5人の取材パートナーたちだ。平安北道(ピョンアンプクド)、両江道(リャンガンド)、咸鏡北道(ハムギョンプクド)の4都市で調査を試みたが、報告の遅延やデータに不十分な点があったため、恵山(ヘサン)市と咸鏡北道A市の2か所の調査結果を整理した。

調査の最大の障害となったのは通信問題である。アジアプレスでは中国の携帯電話を北朝鮮に搬入して連絡を取り合っているが、金正恩政権は中国との国境地帯で強力な妨害電波を発する一方、通信探知機器を携行した取り締まり組織を巡回させて、外国と連絡を取る人間の摘発を大々的に行っている。適時に連絡を取ることは簡単ではない。

平壌と平安南道(ピョンアンナムド)、江原道(カンウォンド)にも取材協力者がいるが、2020年1月に新型コロナパンデミックが発生した後、北朝鮮国内では移動が厳しく制限され、彼らとの接触が困難になった。また協力者たちは、当局による盗聴を恐れて、国内電話を使って他地域の情勢を調べることを躊躇するようになった。

◆流通に大きな支障

調査は4月12日までに終える計画を立てた。なぜなら15日に金日成生誕110年を祝う「太陽節」の行事があり、その後に大規模閲兵式(軍事バレード)があることが予測され、流通する品目や価格に行事が影響を及ぼす可能性があったからだ。

「太陽節」は民族最大の祝日と位置付けられ、毎年住民に対し菓子や食品などが指導者からの贈り物として無償で配布される。この20年ほど内容は非常に貧弱であるが、この特別配給品が市場で売りに出されることもある。様々な事情で4月末以降になってから調査結果が届けられた地域があったが、このデータは除外した。

金正恩政権は5月12日に新型コロナウイルスの感染者発生を初めて公式に認め、全国で地域間の移動を全面的に止めた。また多くの都市が封鎖され外出もできない状態が続き、市場も閉鎖された。

都市封鎖は6月中旬までに概ね解除されて市場も再開したが、都市間移動は6月27日時点でも強く制限されたままで、物資の流通に大きな支障が出ており、4月の調査時と比べると市場の商品は激減したとのことである。

このような制約と変化があったことを念頭に置いて報告を読んでいただきたい。なお、4月中旬時点の1000ウォンは約18円である。

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