(参考写真)北朝鮮では農民はもっとも貧しい職業だと蔑まれている。2008年10月に平壌郊外の農村で撮影チャン・ジョンギル(アジアプレス)

北朝鮮で今年の農村は困窮著しいという情報は、各地からすでに3月には伝わってきていたが、初夏から栄養失調者がさらに増えるなど状況は悪化。飢饉の広がりが心配される中、当局は、8月に入ってようやく緊急の食糧配布を行ったことが分かった。北部の咸鏡北道(ハムギョンプクド)に住む取材協力者が8中旬、北部地域協同農場を調査して伝えてきた。(カン・ジウォン

◆「絶糧世帯」3割の農場も

今回調査したのは、咸鏡北道のある都市近郊のA協同農場だ。農場員数は約500人で、主にトウモロコシを栽培している。咸鏡北道では平均より若干小規模な農場だ。

A農場では早くも3月初旬から飢えが始まっていた。現金も食べ物も尽きた「絶糧世帯」が出現し始めたが、当局は農場幹部に対応を丸投げする「自体解決」を求めた。農場では幹部と余裕のある農場員にトウモロコシ1~2キロ程度の供出を繰り返し求め、「絶糧世帯」に配って凌いできた。

しかし、状況はまったく好転せず厳しくなっていった。調査した協力者は次のように言う。

「どの分組にも『絶量世帯』が3~5軒あるそうだ。顔がむくみ、栄養失調で起き上がることができない人が少なくない。知人の分組ではそのような家が3軒あると言っていた」

分組とは集団で農作業をする最小単位のことだ。現在は10数人程度で構成される。A農場では約3割が飢えに苦しんでいるということになる。

◆8月にようやく7.5キロを緊急配布

A農場の幹部たちが、いよいよ万策尽きたことを上部に報告したところ、8月に入って道からようやく緊急食糧が配布されたという。協力者が説明する。

「農場員1人当り1日250グラム基準で、全農場員に1カ月分を一括で配布した。すべて中国産で、A農場の知人は白米5キロとトウモロコシ粉2.5キロを受け取った。当初は『絶糧世帯』だけに与える方針だったが、農場員の誰もが暮らしが厳しいため、全員が対象になったそうだ。ただ、無償ではなく秋の収穫後に返済しなければならない『前貸し』だったそうだ。それでも農場員たちはとても喜んでいた」

大きな背嚢を背負い畑の脇を歩く女性。2021年7月中旬に、平安北道を中国側から撮影アジアプレス

◆生産者が飢える搾取の構造

北朝鮮で農民の暮らしが厳しいのは今に始まったことではない。生産者が飢えるのは、収穫のうち国家の取り分が多すぎるからだ。生産計画が未達でも、国家に規定分を納めねばならず、農民たちは分配(取り分)を食べつくした春から飢えに苦しむ光景が繰り返されてきた。

国家の取り分は、軍隊や党、行政の職員、平壌市民、警察などの統制機関員、軍需工場の労働者などの「優先配給対象」に回される。農民からの搾取が困窮を生み続けているわけだ。

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