(参考写真)軍兵士が検問する様子を中国から撮影した。腕章を巻いた兵士がバスの乗客の証明書を確認しているようだ。2019年9月に平安北道の朔州(サクジュ)郡を撮影石丸次郎。

◆密輸と脱北未遂頻発でまるで戒厳令下

金正恩政権が、中国との国境に近い両江道(リャンガンド)でこれまで午後7時からだった夜間通行禁止措置を、11月から午後6時に繰り上げたことが分かった。両江道では10月初め頃から密輸や脱北を図って摘発される事件が頻発したため、上部から「完全根絶」の指示が出され、さながら戒厳令下のような状態にある。現地の取材協力者が伝えてきた。(カン・ジウォン

◆国境に接近する者は無条件に射撃と布告

情報を伝えてきたのは両江道に住む複数の取材協力者。中心都市の恵山(ヘサン)市では午後5時頃から取り締まり要員が街中で笛を吹いて帰宅を促し、6時までに市場も一切に閉鎖されるという。密輸や脱北は夜間に行われるため、とにかく住民を家から出させない措置だ。

金正恩政権は2020年8月25日、新型コロナウイルスの流入を完全遮断することを口実に、中国との国境地帯の他道、咸鏡北道(ハムギョンプクド)、慈江道(チャガンド)、平安北道(チャガンド)を含む全域に対し、「北部国境封鎖作戦を阻害する行為をしてはならない」という布告を社会安全省(警察)名義で出した。

「国境に接近する者は無条件に射撃」するという厳しい内容に加え、「夜間通行禁止時間は4月から9月までは午後8時から翌日午前5時まで、10月から3月までは午後6時から翌日午前7時までとする」ことが明記されていた。

しかし、コロナの感染爆発が一段落した8月頃から防疫規制が少し緩み、経済活動再開への期待の高まりもあってか、10月になっても夜間通行禁止は従前の午後8時からのままであった。

アジアプレスが入手した20201年8月の「布告文」のタイトル部分。「国境に接近する者は無条件に射撃する」と書かれていた。

◆密輸と脱北未遂続発で厳戒に

様相が変わったのは10月に入った頃からだ。両江道の普天(ポチョン)郡、三池淵(サムジヨン)市と金亨稷(キムヒョンジク)郡で密輸と中国への逃亡企図が立て続けに摘発され、11月から通行禁止時間が午後6時からに繰り上げられた。現地の殺伐とした空気を協力者は次のように伝える。

「電力難で明かりもまともに点かない家に早々と戻らなくてはならなくなった。街頭では安全局、保衛部(秘密警察)らが夜間も交代勤務までして取り締まりを始めた。糾察隊も辻々で規制している」
※糾察隊は社会風紀違反を取り締まる組織で、学生、青年団体、女性団体などから人員を選抜する。

「午後6時を過ぎて外出している人は無条件に安全局に連行されて調査を受ける。何のためにどこに行こうとしていたのか、確認されないと帰してくれない。病気の子供を連れて夜間に鍼を打ちに行った人たちが中国に越境しようしたと誤解され、一晩中安全局に留め置かれるということがあった。

人々の不満は強いが、取締りを担当する機関に対し上部から、『今後国境で密輸、脱北を絶対に発生させない』と忠誠の誓いをさせたそうだ」

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