(参考写真)空腹のせいなのか10歳にも満たなさそうな子供のコチェビが市場で力なく座り込んでいる。晩は寒さと闘わなければならないだろう。2012年11月に恵山市で撮影アジアプレス

◆北部は-30度以下に

1月下旬、今シーズン最強だったという大寒波が、ちょうど旧正月休みの東アジア一帯を覆った。ソウル、北京は-15度前後、北朝鮮に隣接する吉林省の延辺地区は-27度まで下がった。

北朝鮮北部の恵山(ヘサン)市に住む取材協力者から連絡があったのは、日本が大雪によって交通網が乱れた1月24日の晩だった。恵山市も-30度まで冷え込んだ。

「寒すぎて外に出られません。雪もたくさん降りました。お金がなくて食べ物に加えて暖房をどうするのか、皆が心配しています。『ちょっと温もらせて』と近所の人がドアを叩くこともしょっちゅうです。焚きものを買うために食事を我慢してガリガリに痩せてしまった人もいます」

◆「かまど同居」…寒さで別家族が臨時同居

北朝鮮には「かまど同居」という言葉があるそうだ。燃料を満足に買えない人たちが冬の間だけ、一つの家に同居するのだ。言うまでもなく、暖房費を節約するためだ。北朝鮮ではアパートでも単独住宅でも、燃料の大部分は石炭か薪を使う。かつては廉価な石炭の国家配給があったが1990年代にほぼ破綻し、商人から現金で購入するのが一般的になった。

今、問題なのはお金がないことだ。この3年間、金正恩政権による過剰な新型コロナウイルス対策で経済不振が深刻化し、庶民の大部分が商行為の不調や働く機会を失って現金収入を激減させた。

老人世帯などの脆弱層には飢えや病気で死亡する人が出ている。さらに冬季は焚きものの負担がずしりとのしかかる。

「石炭1トン130中国元が市場価格ですが、トン単位で買える人はほとんどいません。薪も5束1400ウォンで小分けにして売っている」
※市中では朝鮮ウォンと中国元が併用されている。10円は約5.3元、64ウォン。

村の共同井戸で水を汲んで家路につく女性。燃料費節約のため沸かさずに飲む人が多い。2015年1月北朝鮮中部地方で撮影アジアプレス

◆浮浪児やホームレスの凍死事件が各地で発生

1月の大寒波の折、恵山市で悲しい事件があったそうだ。建設現場でコチェビと呼ばれるホームレスの子供2人の凍死体が発見されたのだ。

「借金のカタに家を取られて倉庫や駅舎で暮らす『放浪者』が増えて問題になっており、安全局(警察)では、毎日のようにパトロールして捕まえて収容施設に入れるけれど、ろくに食事を出さないのでまた逃げ出します。そんな子供たちが外で寝て凍え死にするんです」

この事件は当局内でも問題視されたようで、厳寒期の間は安全員が放浪者やコチェビを臨時に旅館に連れて行っているという。

また、咸鏡北道(ハムギョンプクド)の茂山(ムサン)郡では、屋外のほら穴や農村の畑に置いてあるトウモロコシわらの中で凍死体が相次いで発見され、警察当局が住民の居住実態の調査を徹底させた。凍死した人たちがコチェビ(ホームレス)、行方不明者、他地域からの流浪者であったため、居住地離脱者を一掃し住民の動向を把握するための措置だという。

◆病院も暖房なしで強制退院

咸鏡北道(ハムギョンプクド)に住む別の協力者は、昨年末に恩徳(ウンドク)郡の炭鉱町でショッキングな場面に出くわした。

「落ちている石炭を拾うために子供や年寄りが炭鉱に大勢集まっていました。殺到した人を炭鉱の職員が追い散らして、拾い集めた石炭を回収していたのですが、現場は殺気立っていて、泣きわめく人がいたり、刃物沙汰まで起こったりして安全局の機動隊まで出動していました」

「暖房難」は家庭だけの問題ではない。恵山市の協力者によれば、年初から上級病院である両江道病院、恵山市病院でも石炭が調達できず、重症でない入院患者を強制退院させた。ガソリンが高騰して当局が石炭を運搬できなくなったためだという。

◆住民は越冬闘争中

1月後半の大寒波の最中、恵山市当局はようやく重い腰を上げて、食糧も暖房もまったく準備できない最貧困家庭の支援に乗り出した。

「私の人民班では2~3の困難世帯に石炭150キロを緊急に無償で支給しました。けれどそれではまったく足りないので、他の住民たちに支援しろと指示している」

1人民班は20~30世帯で構成される。普通4人家族で一冬に1~1.5トンの石炭が必要だ。150キロでは節約しても10日程度しかもたない。

北朝鮮の冬は長い。生存をかけた民衆の寒さとの戦いは、3月下旬まで続く。(石丸次郎)

北朝鮮地図 製作アジアプレス

 

 

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