(参考写真)露天の市場で中国産のコメを売る女性たち。袋には「秋田小町」の商標が。このような光景はもう見られない。2013年10月北部国境都市で撮影アジアプレス。

◆闇販売は一転して黙認

北朝鮮の北部都市の公設市場で、コメとトウモロコシの販売が1月から全面的に禁止されていたことが分かった。北部の咸鏡北道(ハムギョンプクド)、両江道(リャンガンド)、平安北道(ピョンアンブクド)の複数取材協力者が確認して伝えてきた。この措置によって食糧を購入できるのは国営の「糧穀販売所」だけになったが、その販売量が大きく不足しているため、不安が広がって様々な混乱が生じている。(カン・ジウォン/石丸次郎

アジアプレスが市場での食糧販売禁止を確認したのは北部地域の4都市。首都の平壌や他都市の状況は情報がなく不明だが、全国的な措置である可能性が高いと思われる。

「昨年末に、2023年から市場で一切の食糧の売買を禁じると市場管理所から商人に通告があり、実際に年明けから措置が実施された。販売禁止になったのは主食のコメとトウモロコシで、ジャガイモや大豆などの「非糧穀」の販売は可能だ」

両江道の協力者はこのように説明する。咸鏡北道の協力者の報告も同じであった。

(参考写真)農村から買い出してきた食糧を自転車に載せて都市に運ぶ男性。労多くして実入り少ない仕事であるため都市貧民が多い。現在は厳禁されている。2010年10月平安南道にて キム・ドンチョル撮影(アジアプレス)

◆販売禁止に至る経緯

市場での食糧販売に対する規制が強まり始めたのは2020年1月、新型コロナウイルス・パンデミックが始まってからである。コロナ防疫を緊急の最優先策とした金正恩政権は中国との貿易をほぼ途絶させ、国内では人とモノの移動・流通を厳しく抑えた。

その結果、深刻な物資不足が発生し食糧価格も乱高下した。当局は市場での食糧取引に介入、販売価格の上限を設定して商人にその厳守を強い、売り惜しみと買い占め行為を監視した。強引に食糧価格の安定を図ろうとするものであった。

一方で、金正恩政権は国営の「糧穀販売所」の拡充を図った。すでに2019年から各地でコメとトウモロコシを市場より少し安い価格で不定期に売り始めた。パンデミック後は全国に運営を広げた。

北朝鮮に住む取材協力者たちの報告を総合すると、2021年から「糧穀販売所」では「在庫がある時に売る」方式から、月1回、1人当たり5キロ程度を世帯単位で販売する方式に変えた。

2022年12月時点の市場価格は、概ね白米6000ウォン、トウモロコシ3000ウォンだったが、「糧穀販売所」では白米4400ウォン、トウモロコシ2400ウォンで均一だった(いずれも1キロの価格。100円は約6400ウォン)。中国元や米ドルなどの外貨でも購入できる。

また、出勤している労働者に対しては、1カ月に数キロ程度だが、別途に食糧配給が実施された。ただし無断欠勤が重なったり、職場を離脱したりした者は除外された。かつての配給制の復活のように認識している人々もいたが、数カ月間1グラムの支給がない期間があったり、職場によって差があったりと、不安定な状態が続いていた。

このように、金正恩政権は市場を強く抑制する一方で、「糧穀販売所」での流通に注力した。食糧の国家専売制を目論んでいるものと思われる。

(参考写真)2012年11月に撮影された国営「糧穀販売所」。コメ袋は見えず開店休業状態だ。2012年11月に両江道恵山市でアジアプレス撮影。

◆20年ぶりに市場販売を非合法化

昨年秋の収穫後、市場での食糧流通規制は一気に厳しくなった。商売人が農村から流出する食糧を購入することや、貿易会社が保有する食糧を商売人に販売することが厳格な取り締まり対象になった。

市場では商売人に対し穀物の出所を証明する書類の提示を求め、販売量も制限された。コメやトウモロコシを陳列して売ることが禁じられたわけではなかったが、儲けにならないため、食糧販売から撤退する商人が相次いだ。

そして今年1月初めから、ついに市場での食糧取引の全面禁止が強行された。2003年に闇市場が合法化されて以来のことである。

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