(参考写真)ずた袋を担いで街中を徘徊していたコチェビ(浮浪児)の男の子。この春から各地でコチェビの増加が伝えられている。2013年9月平安南道の平城市にて撮影アジアプレス

<北朝鮮内部調査>地方で飢饉の様相「5月に入り飢えと病気で大勢死んでいる」(1) 国家保有食糧が払底か

◆食糧確保できない金正恩政権

北朝鮮の農村は今、「ポリコゲ」と呼ばれる春窮期のただ中にある。前秋の収穫分を食べ尽くし、9月にトウモロコシがとれるまでの端境期のことで、農民にとって1年で最も暮らしが厳しい時期だ。都市の場合は、通常「ポリコゲ」の影響は市場の食糧価格が上昇するという形で現れるが、今年は異なる。地方の都市部で飢えが広がっているのだ。北朝鮮最大の鉄鉱山を擁する咸鏡北道(ハムギョンプクド)の茂山(ムサン)郡でも人道危機は深刻だった。現地の取材協力者に実情を聞いた。(カン・ジウォン/石丸次郎

金正恩政権は2020年にパンデミックが発生したのと前後して、「食糧専売制」への政策転換を強引に進めた。市場で主食のコメとトウモロコシの販売が強く規制され、一般住民は国営の「糧穀販売所」での購入と、職場での少量の食糧配給に依存する度合いを高めるしかなくなっていった。

食糧流通を国家が独占管理しようという金正恩政権の試みは、必然的に国が確保すべき食糧量を増大させることになった。「ポリコゲ」の今、国の保有食糧が減って、地方都市の住民、労働者に供給できなくなり、飢饉の様相を呈しているのだ。

◆栄養失調で出勤できない労働者も

咸鏡北道の茂山郡は中国との国境地帯に位置する鉄鉱山の街だ。推定人口は10万程度。ここに住む取材協力者A氏に聞いた。

――茂山鉱山はどんな状態ですか?

A 栄養失調で出勤できない労働者が出ています。4月分の配給はトウモロコシ6キロがすべてでした。それも本人分だけです。5月中旬に中国から食糧支援があるので、それまでは戦時物資を回して食糧配給すると(上では)言っていますが、(5月16日時点で)まだ出ていません。(あったとしても)労働者本人分が5キロ程度でしょうから、大して役に立たないでしょう。

※茂山鉱山は北朝鮮最大の鉄鉱山で従業員数は推定1万人。運輸、採掘、精錬など多くの職場に分かれており、配給量は職場ごとに異なる可能性がある。

 

――当局は労働者を何か支援をしていますか?

A 茂山鉱山では、ずっと無断欠勤者を厳しく取り締まっていたのに、労働者の生活が苦しいので、(今では)食糧調達に出かけるために休むことや、(外部で)賃仕事をするのを認めるようになりました。中央党では茂山鉱山に配慮するとして、作業服などを送ってきました。水産物も送ると言っていますが、食糧がないのです。

※金正恩政権は職場を離脱して商売や仕事に出ることを、パンデミックが始まった2020年頃から厳格に取り締まってきた。それを一転、規制を緩和して、自力で食べ物を調達するために一時的に職場を離脱してもよいことになった。

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