◆吹き付け石綿並み飛散でも規制“緩和”

もう1つの問題は、石綿濃度が多少なりとも減少すれば本当にそれだけでよいのか、ということだ。

じつは石綿濃度を実際より大幅に低く「見せかける」ことができる分析法が採用されたにもかかわらず、非常に高濃度なのだ。

すでに述べたように石綿含有スレート板の切断作業では、集じん機なしで空気1ccあたり17.53本ないし13.69本の白石綿を検出。集じん機ありでは1.42本ないし1.89本だった。集じん機なしに比べ、「15%以下に抑制した」と国の報告は強調する。また湿潤ありでは12.18本ないし4.78本のため、やはり集じん機ありは「40%以下に抑制した」と同じく報告した。

これらの測定値は小さいように感じるが、一般大気中の測定で使われる空気1リットルあたりに換算すると、集じん機なしで1万7530本ないし1万3690本、集じん機ありでも1420本ないし1890本という高濃度である。

石綿含有けい酸カルシウム板第1種(クリソタイル2.8%、アモサイト6.6%、クロシドライト4.1%含有)にいたっては集じん機なしで空気1リットルあたり白石綿1万300本、茶石綿7万8800本、青石綿5万8950本で計14万8050本に達する。もう1回の測定でも茶石綿5万2780本、青石綿4万9790本で計10万2570本(白石綿は不検出)。集じん機ありでは湿潤化に比べ、「濃度を60%以下に抑制した」と国の報告は強調するが、それでも白石綿400本、茶石綿2万1910本、青石綿1万9520本の計4万1830本。もう1回の測定でも茶石綿5180本、青石綿3590本で計8770本。

環境省のマニュアルは「一般環境のアスベスト濃度は、近年、濃度レベルが低下してきており、(石綿以外を含む)総繊維でも概ね0.5f/L以下のレベルで推移している」と解説(f/Lは1リットルあたりの繊維数)。同省の全国調査でも、一般環境では石綿はほとんど不検出。住宅地では近隣の解体現場などの影響でわずかに検出される程度で平均0.21本(2022年度)にすぎない。そのため同省は石綿以外も含む総繊維で1本超を漏えいの「目安」としている。こうして考えるとどれだけ高濃度かわかるだろう。

だが厚労省は今回の実証実験から「除じん性能を有する電動工具は、湿潤化した状態での(除じん性能を有しない)電動工具を用いて作業した場合と比較して、粉じん濃度を大幅に低減させることができる」と結論づけた。

国の有識者会議で委員も務めたことがある分析機関の専門家に測定データを伝えると「そんな高いんですか。ずさんな吹き付け石綿の除去工事並みじゃないですか」と驚いていた。

そして、「これでは現場の作業員は基準超の石綿にばく露してもおかしくない。実質的に規制緩和ですよ」と批判した。

もっとも危険性が高い吹き付け石綿の除去では、現場からの飛散防止措置としてプラスチックシートによる「隔離」養生だけでなく、場内を減圧し、石綿を特別なフィルターで除去する「負圧除じん」などが必要になる。しかも作業者のばく露防止として、加圧式の全面防じんマスクと防護服の着用が義務づけられる。

ところがけい酸カルシウム板第1種の切断や石綿含有塗材の研磨はく離で、国が飛散防止対策として義務づけているのは隔離養生と湿潤化だけ。ばく露防止では半面式の防じんマスクと作業着の使用だけだ。

さらに重大なのは、「大幅に低減」してもなお吹き付け石綿の除去と変わらないほどの高濃度ばく露であることだ。しかもそれが石綿飛散の“隠ぺい”に好んで使われる分析法でさえ、それだけの高濃度であることを忘れてはならない。実際にはこれよりも10~100倍の可能性がある。

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