鴨緑江の堤防工事に動員された都市住民。無報酬労働が住民の暮らしをさらに圧迫する。平安北道を2021年7月中旬に中国側から撮影アジアプレス

北朝鮮の地方都市で、多くの住民が生活苦に喘ぎ餓死者まで発生している問題に対し、6月後半、平壌の労働党の中央組織が咸鏡北道(ハムギョンプクド)の党のすべての幹部に対し自己批判を求めていたことが分かった。金正恩政権が有効な対策を打てないまま住民の困窮が深まっていることで、党の政策に対する不信と反発が広がっていることが背景にあると見られる。(カン・ジウォン)

◆国営メディアは沈黙

「6月17日に、すべての党幹部を対象に自己批判書を出すよう中央党から命令が下された。自己批判書の枚数は2枚以上で、人民生活の混乱に対し担当する組織の任務をきちんと果たしたのか総括し、収拾のために今後どんな努力をするのかを書けと命じられたそうだ」

咸鏡北道のA市に住む取材協力者B氏が、A市の労働党委員会に勤める知己の幹部に会って得た情報として、このように伝えてきた。

6月17日は労働党中央委員会第8期第8次全員会議が招集された日であった。その後の労働新聞などの国営メディアには、会議で餓死者発生などの人民生活の混乱について討議されたという記述は見当たらない。ただ、6月19日付け朝鮮中央通信に次のような一文が掲載された。

上半期の経済活動で人民経済計画を無条件に遂行する厳格な規律を確立できず、経済の自立的土台を築くための事業を実のあるものに行えなかった一連の弊害が厳正に分析された

◆対策も出さずに座ってばかりいる

B氏が会った幹部によれば、平壌の中央党は、地方の党の幹部たちが自分の役割を果たさず、地位を守ることだけに汲々として人民生活の混乱をきちんと解決しようとせず、対策も出さずに座ってばかりいるため様々な社会問題が発生したと批判したという。

批判の対象になったのは高級幹部も例外ではなかった。道のトップである道党責任秘書(書記)をはじめ、市、郡の党のトップらもすべて自己批判を求められたという。また、自分の担当地域、担当組織において発生している現在の無残な状況をどのように解決するか、対策案も出せと命じられたという。B氏は次のように説明する。

◆「食糧もないのに…」 自己批判要求に不満も

「この自己批判せよとの命令に対しては、党組織の中でも不満が多いようだ。混乱をすぐに解決できる策は食糧の放出しかないのに、その食糧がないからだ。幹部たちから出たのは、南部地域で収穫が始まったジャガイモを輸送する案くらいだったそうだ。トウモロコシが実る8月15日まで、とにかく住民の暮らしを何とかするよう集中せよという指示があったが、かといって上部からは具体的な対策はなく、A市に食糧が入ってくる保障もない。中国とロシアから食糧が入ってくると4月から宣伝していたのが、未だに供給されていない」

咸鏡北道以外でも、党幹部が自己批判を求められる事態があったのか、7月19日時点で確認できていない。

※アジアプレスでは中国の携帯電話を北朝鮮に搬入して連絡を取り合っている。

 

 

 

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