11月26日の人民会議代議員選挙を宣伝するイラスト。「人民大衆中心の我が国の社会主義制度万歳!」とある。2023年11月の朝鮮中央通信より引用。

11月26日に北朝鮮で4年に一度の地方選挙、すなわち道、直轄市、市、区域、郡の人民会議代議員の選挙が実施される。その候補者を選ぶ予備選挙が4日に各地で行われたが、2人の候補者から選ぶ無記名の秘密投票が採用された。初めてのことだと見られる。また26日の選挙を前に国内は厳戒態勢に入っている。選挙をめぐる「異変」について2回にわたって報告する。(カン·ジウォン/石丸次郎

◆2人立候補させて初めて秘密投票

北朝鮮の人民会議代議員選挙は、当局が指名したただ1人の候補に対し、ほぼ100%の投票率で、100%賛成がお決まりの、いわば「強制選挙」であった。しかし、今回の地方人民会議代議員選挙では、おそらく北朝鮮史上初めて複数候補者から1人を選ぶ予備選挙が各地で実施された。アジアプレスでは両江道(リャンガンド)と咸鏡北道(ハムギョンプクド)に住む取材協力者が確認して伝えてきた。他地域でも同様に予備選が実施された可能性が高いと見られるが、11月24日時点で、アジアプレスでは確認できていない。

両江道に居住する取材協力者よれば、予備選挙が行われたのは11月4日。当局は2人を候補者として推薦し、うち一人を選ぶよう促して秘密投票が行われた。当日の状況を協力者A氏は次のように説明する。

「朝に有権者会議があって、道が推薦した2人の中から選んで投票するように指示があった。(複数候補は)初めてのことだ。洞事務所(町役場に相当)に設置された選挙投票所に、当日になって候補者の経歴と受勲歴を紙に書いて張り出した。

私の住む洞では上から推薦された候補者は男性2人で、1人は〇〇のB所長、もう1人は〇〇のC支配人だった。1人を選抜せよとの指示だったが、過去に(物資の)横流しで問題になったことがあったBは落ちた」
※候補者に関する情報は協力者の安全のために伏せる。

4日に行われた予備選挙で「当選」した候補者は、26日に行われる選挙に、従来通り当局が推薦する唯一の候補として選挙に臨むことになると見られる。

◆米RFAも異例の選挙を報道

4日にあった予備選に関しては、米国のRFA(自由アジア放送)が11月7日から連続して公開した記事で、内部情報をもとに詳細に報告している。概要は前述したアジアプレスの協力者の報告と同様だ。

RFAの記事では、恵山(ヘサン)市のある洞では1979年生まれの糧政事務所の支配人と73年生まれの食堂の経理担当者が候補者となり、前者に70%以上の賛成票が集まったという。候補者は2人とも女性だったとしている。投票用紙には2人の名前が書いてあり、必ずそのうち1人に丸をするように指示されたという。

糧政事務所とは、地方政府傘下機関で、食糧の専売所や配給を管轄する機関。住民の暮らしが大変厳しいため、食糧供給が良くなることを期待して投票したのだろうと、RFAは「当選」の理由について記している。

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