安倍派の中核議員の一人である西村康稔経済産業大臣。HPより

◆赤字パーティは寄付にあたり公選法違反 また安倍氏の影

公職選挙法では選挙区内の有権者に寄付をすることは禁止されている。江藤拓元農林水産大臣の政治資金団体が選挙区内で開催した政治資金パーティが赤字だったことを隠すために、西村康稔経済産業大臣が代表を務める兵庫県の政党支部が肩代わりしていた可能性があることが分かった。パーティが赤字、つまり有権者に寄付したことになり公職選挙法違反となる。この問題で西村大臣、江藤元大臣ら4人が22年9月に刑事告発されていた。(フリージャーナリスト・鈴木祐太

刑事告発をしたのは上脇博之神戸学院大学教授。

告発状によると、事件の発端になったのは、江藤元農水大臣の選挙区である宮崎県の「フェニックス・シーガイア・リゾート」(以下、シーガイア)で2018年8月25日に開催された「安倍総理との懇親会」という名のパーティだ。

これは安倍晋三首相(当時)が再選を目指した自民党総裁選(18年9月7日告示、9月20日、以下、総裁選)の直前で、告発状では総裁選に向けた宮崎県票対策のパーティだったのだろうと指摘している。

江藤元大臣が代表を務める政治団体「飛雄会」が主催したこのパーティにかかった費用は、西村大臣の政党支部が負担した分を含めると合計439万2212円(内シーガイアへの支払いは405万6964円)だった。それに対してパー券販売による参加費は303万円だった。つまり、このパーティは赤字だったわけだ。このパーティに江藤元農水大臣の選挙区の有権者が参加していた場合、選挙区の有権者への寄付を禁止している公職選挙法に違反する可能性がある。

江藤元大臣の「飛雄会」の政治資金収支報告書(以下、収支報告書)には、参加費303万円の収入に対し、支出は258万3264万円(そのうちシーガイアへは225万3264円)であったと記載されている。この会計だけをみると「飛雄会」が主催したこのパーティは表向き黒字となり、公職選挙法違反にはならない。

西村康稔経産大臣が支部長を務める自民党兵庫第9選挙区支部の政治資金収支報告書に「宮崎集会負担分」として180万円余りが支出されていた。

◆西村大臣側がパーティ会場費を肩代わりか

ところが実際には、赤字分のシーガイアへの残りの代金を西村大臣が代表を務める「自由民主党兵庫県第9選挙区支部」(以下、兵庫第9支部)が支払っていたのだ。その額は180万円3600万円。これは「飲食代」として西村大臣の「兵庫第9支部」の収支報告書に計上されている。

上脇教授が情報公開請求して入手した領収書の但し書きには、「宮崎集会負担分」と明記されていた。「飛雄会」が主催した「安倍総理との懇親会」の費用を肩代わりしたのだろう。「兵庫第9支部」が宮崎県で開かれた集会に180万円以上の飲食代を支払うのはあまりにも不自然だ。

本来ならば、主催した「飛雄会」が払うべきものを「兵庫第9支部」が肩代わりしたとなると、これは事実上、「兵庫第9支部」から「飛雄会」への寄付に当たると告発状は指摘している。すなわち「兵庫第9支部」がシーガイアに支払った経費は、「兵庫第9支部」から「飛雄会」への寄付と記載すべきであり、この寄附の授受を両者が記載しなかったことがいずれも政治資金規正法違反にあたるというわけだ。

パーティの「会場使用料」として江藤元農水大臣の政治団体「飛雄会」に発行された領収証。

◆「会計責任者らの判断だけではできない違法行為だ」と専門家

これらの事柄について質問したところ、江藤事務所は「パーティを開催したことは事実」とし、兵庫第9支部の支払いについては「兵庫第9支部がどういう経緯があってシーガイアに支払いをしたのかは分からない」と回答した。西村事務所からは期限までに回答がなかった。

上脇博之教授は告発をした経緯を次のように述べる。

「『兵庫第9支部』が独自にわざわざ『宮崎集会』を開催するはずがありません。西村大臣は当時安倍総理に随行し、『飛雄会』が主催した『安倍総理との懇親会』にも参加していたことを確認しました。

当時、自民党総裁選における安倍票獲得のために西村大臣と江藤元大臣が共謀して赤字になる『安倍総理との懇親会』を開催し、赤字分は公選法違反の寄附になるので、その発覚を免れるために、『兵庫第9支部』がその費用を肩代わりしたのでしょう。会計責任者らの判断だけではできない違法行為です。そう確信しましたので22年9月に宮崎地検に告発状を送付しました」

◆宮崎地検は捜査継続か 「是非とも規正法違反で大臣らを立件して欲しい」

上脇教授が告発してからすでに1年が経っているが、告発状を出してもすぐに差し戻されるケースもあることから上脇教授は次のように推測している。

「私の見立てが間違っていたら、告発状を地検は返戻するでしょうが、いまだに返戻されていませんので地検は捜査を続けているということでしょう。是非とも規正法違反で大臣らを立件して欲しいと思っています」

2018年に行われた自民党総裁選挙は事実上、日本の総理大臣を選ぶ選挙だった。総裁選は公職選挙法の下で行われた選挙ではないが、その過程において法を率先して守るべき政治家が選挙に関して法を違反していたとなれば、その正当性が問われることになる。

 

■ 鈴木祐太 (すずきゆうた)
1981年香川県で生まれ。岡山、大阪で育つ。大学在学中から貧困状態にある子どもたち、特に被差別部落や在日外国人の子どもたちへの支援に関わり、小学校講師、派遣社員などを経てジャーナリズム活動を始める。フロントラインプレス所属。

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