鴨緑江上の運搬船で働く北朝鮮の労働者。犬を連れている。2023年10月に中国側から撮影アジアプレス

北朝鮮の地方都市で最近、企業の食糧配給に大きな格差が生じ、労働者の不満が高まり問題になっていることが分かった。1月には配給が皆無だった企業もあり、労働者が幹部の責任を問うて会議の場で非難する事態まで発生。配給が出る職場に移籍しようという動きが急増し、当局が統制に追われているという。(カン・ジウォン/チョン・ソンジュン/石丸次郎)

◆金正恩政権が無理に復活させた食糧配給

金正恩政権は工場や企業の経営裁量権を拡大し、個々の企業が採算に責任を持って経営改善し、従業員に対する待遇を改善することを奨励した。

これには、1990年代にほぼ崩壊してしまった配給制度を補完しようとする意図があったが、貿易会社など一部の企業以外ではあまり成功しなかった。また、市場をはじめとする個人の経済活動が活発化し、それによって生計を営むようになった大多数の住民は、職場で食糧が配給されることに期待も関心もなくなってしまった。

ほぼ20年以上続いた「市場経済で食べていく」経済構造は、パンデミックを機に大きく変わる。金正恩政権は2020~21年頃から市場での商売をはじめ、ほぼすべての個人の経済活動の統制に乗り出した。同時並行して、労働者には職場への出勤を強要し、その代わりに各企業が食糧を配給するように指示した。

いわばニンジンをぶら下げて出勤に誘導したのである。この政策によって、企業によって差はあるものの、北部の平安北道(ピョンアンプクド)、両江道(リャンガンド)、咸鏡北道(ハムギョンプクド)の場合、出勤する労働者の本人分に限って、概ね1カ月に5~7日分の食糧を配給するようになった。

◆商売統制で収入激減しわずかな配給が頼りに

2月中旬に両江道に住むアジアプレスの取材協力者が伝えてきたところによると、個人の経済活動に対する徹底的な統制によって現金収入が激減してしまったため、ほとんどの都市住民は配給に依存するしかなくなってしまった。この協力者は次のように言う。

「商売をやめさせられて、配給や糧穀販売所に頼らざるを得ない状況です。以前は女たちが稼いで食べていたので、気にも留めなかった配給の有無に人々は敏感になってしまいました」

※糧穀販売所 国営の食糧専売所のこと。2023年1月から市場で主食の米とトウモロコシの販売が禁止され、糧穀販売所で購入するしかなくなった。地方都市では1カ月の必要量の1/4から1/3程度を販売している。

ボロボロの廃墟になり長く放置されていた「青水化学工場」の姿。現在は若干建物の改修が施されている。2017年7月に平安北道を中国側から石丸次郎撮影

◆副業で稼いで配給出す企業とゼロの企業

問題は、わずか5~7日分の食糧すら配給できない企業が増えていることだ。配給制度復活の動きが、企業の格差と社会の不平等を露呈させる皮肉な状況が生まれているのだ。企業の中には、本業以外の業務…いわば副業で収益を得て、労働者への配給を自力で解決する所がある一方、本業も副業もふるわない所もあるようだ。協力者は次のように説明する。

「恵山(ヘサン)市の場合、鉄鋼工場は1月分の配給が少し出ていましたが、靴工場やビール工場などではまったくなかった。鉄鋼工場は(副業で)暖房用の薪を運送して稼ぎ、労働者の配給をいくらか出せたのです。配給がない職場の労働者たちが大声で文句を言うようになり、経営幹部たちは苦労しているそうです」

★新着記事