(参考写真)鴨緑江で洗濯をする北朝鮮の女性たち。家事と育児、生計維持まで全てを担う女性たちが多い。2019年9月に中国側から石丸次郎撮影

<内部調査>なぜ北朝鮮の女性は子どもを産まなくなったのか?(1) 出生率の低下すでに深刻…「子供をおんぶする姿がめっきり減りました」

出産数の減少に対し、金正恩政権が何もしていないわけではない。各種行事や講演を通じて結婚と出産の奨励・支援策を宣伝し、非婚女性を利己的な資本主義思想に染まっていると攻撃までしている。処罰をちらつかせながら「愛国主義で産め」という政策に対して、女性たちの反応は冷ややかで、「産まない」という静かな抵抗が続いている。2~3月に北部地域に住む女性3人の話を聞いた。 (チョン・ソンジュン/カン・ジウォン)

◆ 資本主義に染まったと結婚忌避女性を批判・宣伝

金正恩政権は昨年12月、平壌で開かれた「母親大会」を機に、出産奨励政策を積極的に宣伝し、多様な支援を打ち出す一方、女性の間に現れている結婚忌避現象をなくし、革命的な家庭づくりに賛同するよう積極的に訴えているという。

「(出産する世帯に対して)国から食糧も支援し、女盟(女性同盟)などを通じて、『税外負担』を免除し、妊産婦を支援すると通達しました。宣伝も強化しています。母親としての役割を果たさなければならない、(子どもを持たずに)独り身で暮らすというのは資本主義的な考えだ、子どもが一人だけの家庭は愛国心が足りないと強調しています」(協力者A)

「未婚女性は自分勝手で資本主義思想に染まって金儲けしか知らないと批判するので、独身女性たちの間に不満が多い」(協力者C)

「母親大会はすべて形式的で、新聞、放送に出るのはすべて宣伝。それを見て子どもを産まなければと考える女性は一人もいませんよ」(協力者B)

※ 北朝鮮は税金がない国であると長く宣伝してきたが、現実には、インフラ整備や建設、学校などに金品の要求が頻繁である。「税外負担」と呼ばれている。

第5回母親大会で演説する金正恩、2023年12月の労働新聞から引用。

◆子どもを産んで「コチェビ」にすべきでない

当局は、妊婦や多子家庭を支援するよう訴えているが、女性たちの意見は辛らつだ。

「女盟に所属する女性が妊娠したので、(当局は)鶏のスープ(栄養食)を作って支援しよう、自発的にお金を出して支援しようと人々に求めているが、そんなものだけを食べて子どもが育つわけではないじゃないですか」(協力者C)

「賢明な人たちは、妊娠しないようにします。産むとしてもひとり。2人産んだら、バカ扱いされます。もし貧しい家庭が子どもを産んだら、『子どもをコチェビ(浮浪児)にするつもりなのか』と露骨に言う程ですから」(協力者A)

(参考写真)営業していない市場で横たわる「コチェビ」の男児。2012年11月、恵山でアジアプレス撮影。

◆「非社会主義」批判の刃を抜く当局 未婚同居と堕胎が標的

「母親大会」や日常的な宣伝にさしたる効果が見られないことが分かると、当局は「非社会主義」批判の刃を抜いた、と協力者は言う。

「(未婚カップルの)同居、堕胎現象と闘争することについての会議がありました。『同居は、結婚を忌避して公序良俗を乱す行為とみなして処罰し、結婚登録をしないのは自分だけいい暮らしをしようとする非社会主義行為である。積極的に申告して闘争しなければならない』と通達しました」(協力者B)

妊娠したのに出産せず堕胎することには、さらに強い処罰を科している。

「一番激しく闘争するのは中絶です。隠れて手術をした人も、手術を受けた人も罰せられます。とりわけお金をもらって中絶手術を施した者に対しては、教化(懲役)に送ると脅しています」

昨年12月、自宅で中絶手術をした恵山(ヘサン)市病院の産婦人科助産員が、「労働鍛鍊隊」に送られた。手術を受けた女性はまだ若いという理由で法的処罰を受けなかったが、当局は彼女を呼び出して責め、侮辱したという。

「労働鍛錬隊」とは、社会秩序を乱した、当局の統制に従わなかったと見なされた者、軽微な罪を犯した者を、司法手続きなしで収容して1年以下の強制労働に就かせる「短期強制労働キャンプ」のことだ。全国の市・郡にあり保安署(警察)が管理する。

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