◆新しい分配政策で小土地が禁止される
金正恩政権は数年前から、農業政策の転換を断行している。「小土地」に対する当局の管理統制はより強化された。2021年頃から、播種が始まる春になると、「小土地」禁止政策の動向が国内に住む取材協力者から伝えられてきた。昨年から取り締まりは一段と厳しくなったという。
咸鏡北道の取材協力者B氏は、2024年5月と7月に次のように伝えて来ていた。
「農場員が耕作する『小土地』を、一世帯当たり250坪に制限し、耕作地を全数調査した、250坪以上の土地については、生産分を農場の分配から削ることを命じた。(農民たちは)もう分配以外に別途で食糧を確保するのは難しいだろう」
B氏は、不安定な農場の分配よりも、自分で耕す小土地に頼るしかない農民らの反応も伝えてきた。
「(「小土地」の制限に)農場員らの反発は大きい。当局は『個人利己主義を根絶しろ』と言い続けているが、今年も『小土地』をこっそり耕す人が大部分だろう」
◆ついに「小土地」全面禁止 取り締まりに大動員
今年に入り、当局の小土地の取り締まりが、かつてないほど強くなっているという。両江道の取材協力者C氏は3月、次のように伝えてきた。
「今年は個人の『小土地』を全面禁止にするため、取り締まり機関が総動員されている。昨年までは樹木を傷つけない条件で、山にある土地を利用することが許されたが、今年は一切ダメだという指示が、3月中旬に中央党から下達されたてきた」
4月、咸鏡北道の農場員である取材協力者A氏も、同様な情報を報告してきた。
「これまでは、どんな手段を使ってでも『小土地』を作ろうとしたのに、今年は山にある畑を没収するとの通達があり、農場員らは大変落ち込んでいる」
では、なぜ当局は小土地の取り締まりに執着しているだろうか。 その理由はB氏の以前の報告から分かる。
「当局は、農場員らが個人畑(小土地)に依存したら、農場の仕事をしなくなるというのです。それでずっと統制をしている」
◆「小土地」は果たして根絶されるのか?
当局は本当に「小土地」耕作を根絶できるだろうか。もうしばらく状況を見る必要がある。
「小土地」禁止策は、長期には森林を復旧し環境を守るためには良い方向だと言える。しかし、今全面禁止にすれば、北朝鮮の食糧需給に衝撃を与える可能性がある。それは庶民らの暮らしに向かうことになるだろう。
次回は、最近の農政改編で最も興味深い変化が見られる、農産物の流通について報告する。(続く 7 >>)
※アジアプレスでは、中国の携帯電話を北朝鮮に搬入して連絡を取り合っている。

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