北朝鮮で現在進行中の農業政策改編の中で最も注目すべき分野は、農場で生産した食糧流通方式の変化である。改定された法律でも多くの変化が確認できるが、北朝鮮に住む取材協力者からの報告によっても、食糧流通の新しい枠組みが定着しつつあることが分かってきた。(チョン・ソンジュン/カン・ジウォン)
<北朝鮮特集>金正恩氏が挑む農政改編とは何か(1) 農場から「協同」が消えた 農業関連法規を大幅見直し
◆「苦難の行軍」と配給制度の崩壊
かつて、北朝鮮は社会主義計画経済を基盤とし、国家だけが住民に対して定期的に食糧を供給する配給制度を運営してきた。この配給制度における食糧流通とは、端的に言えば、農場で生産された食糧を国が国定価格で買い上げ、住民に供給する方式だった。
しかし、1990年代に計画経済体制が崩壊し、食糧生産量が減少する一方で、国家による食糧流通の統制は弱体化した。国家による一元的な食糧供給体制は機能不全に陥ってしまった。
国家が確保できる食糧は大きく減った。党や軍、平壌市中心部の住民をはじめとする体制維持に不可欠な階層に優先的に供給したが、その他の一般住民は放置された。これが北朝鮮史上最悪の大飢饉を招くこととなった。
◆過去は配給と市場が共存、現在は?
この時期に自然発生した闇市場は、計画経済の廃墟に浸透し、金さえ払えば誰でも食糧と物資を手に入れることが可能になり、陰鬱な社会に活気をもたらした。
破綻した国家供給体制に代わる市場の役割を無視できなかった当局の黙認のもと、市場は配給制度とともに、住民に食糧を流通させる最も重要な機能を持つに至った。国家と市場の間で、食糧流通の主導権を巡る綱引きが続くことになった。
しかし、現在進行中の新しい農政改編により、市場の役割は大きく縮小している。金正恩政権は、長く市場に奪われていた流通の主導権を奪還すべく動いているように見える。
金正恩政権が新たに設計しようとしている食糧流通の枠組みとはどのようなものか?その構造について、法律と取材協力者の報告を重ねて見てみよう。

◆「国家が食糧を供給」と法律に明記
2021年に改正された「糧政法」を見てみよう。
糧政法第4条では
「国家は糧穀収買を唯一的に行い、国家的な糧穀需要と農場員たちの利益を共に考慮する原則で、様々な形式と方法で糧穀収買を進め、糧穀収買の定形を厳格に総括対策するようにする」
と定めた。「収買」とは、簡単に言えば「買い上げ」のことである。
また同法第7条は、
「糧穀を責任をもって供給することは、朝鮮民主主義人民共和国の一貫した施策である」
と明示している。
つまり、「苦難の行軍」期以前のように、国家が統治の手段として糧穀を管理し、その流通も国家管理下に置くという権力の意思が、法律において強調されたものと推測される。