◆農場が企業と契約して収買
では、変わったのは何だろうか?
大きな枠組みで見ると、過去の国家の「全量収買、全量配給」政策から、「一部収買」政策への転換がなされたと見ることができる。
収買とは、北朝鮮の食糧流通と関連する重要な制度であり、政府が国家計画に基づき農民(農場)から食糧を国定価格(安い価格)で購入する制度だ。収買制度は事実上、配給制度の根幹となっている。
これに関する法的根拠は、「農業法」と「糧政法」に見出すことができる。まず、2020年9月に改正された「農業法」第60条から見てみよう。
「農業生産物の供給は計画と契約に基づき行う」
ここでいう「計画」とは、国家によって実施される「義務収買」を意味し、「契約」とは、農場が工場や企業などと個別に結んだ「契約による収買」を意味する。
これに対し、2021年3月に改正された「糧政法」第11条は、次のように明記している。
「糧穀収買は、国家投資分による義務収買と契約による収買に分けて、農業指導機関所属の糧穀収買検査機関が行う」
今回の農政改編により、国家は軍や警察、公務員など国家の必須運用人力に対する食糧のみを義務的な計画方式で収買し、それ以外は各農場が企業と契約する方式で売る方針であると推測される。
一見すると、食糧に対する国家の唯一的な管理を放棄したかのようにも見える。
金正恩政権が描く食糧流通体制のより具体的な内容については、次回に続けることにしよう。(続く 8>>)
※アジアプレスでは、中国の携帯電話を北朝鮮に搬入して連絡を取り合っている。
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