(参考写真) 北朝鮮では農民は長く社会の最下層に貶められてきた。その立場に変化は起こるだろうか。2008年10月、平壌郊外の農村で撮影チャン・ジョンギル(アジアプレス)

金正恩政権による新たな農業政策の改編は、まだ現場に完全には定着していない状況だ。政策導入過程での混乱した状況にもかかわらず、農民たちの自己認識に肯定的な変化も見られると報告されている。そのせいだろうか。農民たちの間では、新政策が定着した後に向けた期待感と不安が交錯している。 (チョン・ソンジュン/カン・ジウォン

◆農場の売り惜しみで都市の食糧価格が上昇か

2025年2月 咸鏡北道の農場員のA氏によれば、農場は 国家計画量(生産ノルマ)を遂行した場合、残りの『余裕食糧』を工場や企業所と直接取引できるようになった。そのため食糧の市中の価格が上がるタイミングを待って、売り惜しみしているという。

「羅津(ラジン)や穏城(オンソン)にある企業から、食糧購入のために農場を訪ねて来ていますが、農場では販売していません。もっと値上がりしてから売ろうとしています。今、食糧は『金の値段』なので、出そうとしないんです」

昨年11月ごろから、都市の食糧専売店の「糧穀販売所」で慢性的な販売量不足が観察されていて、価格上昇も続いた。食糧販売の裁量を得た農場が売り惜しみしていることが原因の一つと見られる。

このような農場の「裁量拡大」の影響なのだろう、農場員のA氏は、最近住民の間で農民に対する認識が変わってきたと述べた。

「食糧価格もかなり上がったし、以前は ノンポ(農胞)だと蔑まれたけれど、今では、農場員は人気がありますよ」

「ノンポ(農胞)」とは、長く北朝鮮で最下層の待遇を受けてきた農民を卑下する表現だ。それが、新しい農業政策が導入されて、変わってきたというわけだ。

秋の収穫に動員された高級中学校(高校に該当)の学生たち。2023年9月に平安北道の朔州郡を中国側から撮影(アジアプレス)

◆畑は「我々の土地」 変わる農場幹部の意識

農場幹部の意識にも変化があるとA氏は言う。農場の幹部たちが新しい政策を宣伝して農場員の生産意欲を鼓吹しているとして、4月に次のように伝えてきた。

「『我々の土地』という言葉をよく使いますね。『生産が増えれば我々のものになる』という言い方もよくします。自分たちだけで農業を営んでこそ秋に(生産物が)残るからと、農村動員の労力の受け入れをやめようという動きもあります」

新政策の導入によって、農繁期に都市から農場に動員されて来る支援人員に対して、農場が食事などの対価を支給しなければならなくなったため、できるだけ自力で営農してしまおうという動きた。

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