◆新農業政策に農民は半信半疑

一方、政府が導入した新しい政策に対して、懐疑的な見方もあるとA氏は語る。

「昨年も同じようなことを言っていましたが、収穫が悪くて、地味の悪い畑を持つ分組は、分配もまともに受けられなかったんです。(当局の)言葉だけは良いのですが。農場の分組長、作業班長の中で借金がない人はいませんよ。うちの分組長も中国のお金で 4万元の借金があります」

4万中国元は約81万円該当する。
※分組:北朝鮮の農場では、通常10人前後の農場員で末端生産単位の分組を組織する。

過去、国は必要な営農資材を保障しなかったため、農場では結局、資材購入費用を、現場の幹部が借金して賄うしかなかった。

「農場では、お金を作るために、畑の端や空き地に作物を植えようと言っていますが、そんなことで(4万中国元の借金)をどうやって返すんですか。分組長たちは、農場員に対し、(トラクターなどの)燃料を立て替えて購入するが、それを秋の分配から差し引くって通告して、(分組員たちに)サインまでもらっていますよ」

これは、営農物資の費用を分組長個人の借金として処理していた過去の慣行から脱し、分組全体の共同責任としようという、新たな認識が根付きつつあるものと見られる。

これまで10回にわたり、最近の北朝鮮における農業政策の変化について調べてきた。「まだ完全には定着していないので、来年(2026年)になってようやく整理されるのではないか」と語るA氏の見方のように、新たな政策の実効性と影響力については、今後さらに見守っていく必要があるだろう。(終わり

※アジアプレスでは、中国の携帯電話を北朝鮮に搬入して連絡を取り合っている。

北朝鮮地図 製作アジアプレス

 

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