
食糧不足を打開するために導入した、農民の生産意欲を刺激する農業政策が、むしろ「統制強化」につながって意欲を削いでいるという弊害が現れているようだ。都市住民はすべての食糧は国営の「糧穀販売所」でのみ取引されなければならず、農民による個人取引は「反動」と見なされる状況だという。現場に導入された政策の撤回や、それに伴う混乱も発生している。(チョン・ソンジュン/カン・ジウォン)
◆農民が個人的に食糧を取引すれば反動扱い
兵士たちが、集中豪雨で破壊された鴨緑江の堤防修復作業を終えて帰還しようとしている。2024年10月、平安北道朔州郡を中国側で撮影アジアプレス
北朝鮮は新たな農業政策を現場に導入しながら、食糧流通に対する強力な統制も並行しているようだ。
2024年3月、咸鏡北道の取材協力者B氏は周辺農村を調査し、次のように伝えた。
「米やトウモロコシは糧穀販売所でのみ取引し、もし個人が保有しているものがあっても、糧穀販売所を通じて委託販売しろという要求です。それ以外の(農民の)個人取引は違法とされ、見つかれば没収、法的処罰まですると警告しています」
糧穀販売所は国家が運営する食糧専売店である。こうした統制の背景には、個人間の食糧取引を禁じ、すべての糧穀の流通を徹底的に国家の管理下に置こうとする意図があると見られる。
昨年秋に入り、その強度はさらに厳しくなった。
2024年9月、咸鏡北道の農場員A氏は、2023年までは都市住民が春の端境期に農村にお金を貸し、秋に食糧で返してもらうという慣行が維持されていたが、今年はそれがほとんど不可能になったと語った。
「秋になって、農村から持ち出される食糧は盗品とみなされ、個人取引はほとんど反動扱いされています。農場には軍人の哨所や赤衛隊の哨所まで二重、三重に設置されていて、個人による食糧流通は完全に遮断されています」
赤衛隊は民間予備軍組織であり、彼らと正規軍を動員して農村地域から食糧が流出するのを厳しく統制することで、国家によってのみ食糧を流通させるという方針を、より徹底させようという意図だと見られる。

◆営農資材の個人取引も禁止
食糧だけでない。営農資材の個人取引も厳しい統制の対象となった。
2024年6月、B氏は農場に供給された肥料や農薬などの営農資材の個人間売買が徹底的に取り締まられているとして、次のように報告した。
「個人が家庭菜園に肥料を一握り買って撒くことすら難しくなりました。個人による営農資材の取引が禁止されており、たまに販売されることがあっても、出所などを明らかにしなければ没収されます」
農場の生産に投入される営農物資が個人のもとに流れ込み、それによって農場の生産が低下し、ひいては国家計画の遂行に支障をきたすという悪循環を防ごうとする試みと見られる。