
◆国家統強化しつつ市場機能も導入という二重の性格
よく知られているように、2019年2月にハノイで行われた米朝首脳会談が決裂した約10カ月後、金正恩政権は「造成された難局」に対する「正面突破戦」を宣布し、経済分野で強力な国家統制を進めて反市場政策に旋回した。
昨今の農政改編はその一環だ。金正恩氏は2019年12月、労働党第7期第5回全員会議で農業生産の決定的向上を正面突破戦の「主打撃前方(前線)」に設定している。
その後、大々的な法律改正を経て、2022年頃から農村現場で本格化した現在の改編は、農業に対する国家の統制力を強化しながらも、制限的に市場機能を導入し、農業現場の自律性と効率性を改善しようとする二重の性格を帯びている。
社会主義計画経済の枠組みを維持しながら、制限的に市場原理を導入することで生産性の向上を狙っている、と見ることができるが、実験的でだと言えるかもしれない。
さらに、金正恩政権は市場を合法化して活用した過去のやり方とは異なり、国家が市場メカニズムを管理し、流通の独占までも意図していると推察できる。
◆農政改編の展望と課題
金正恩氏の新しい農業政策は成功するだろうか。
過度な統制は生産性向上の障害になる。一方で、過度な市場化は政権の不安定要素として作用しかねない。金正恩政権は、国家統制と市場原理の間の適切な均衡点を見出すことができるだろうか。そこに、今回の農政改編の成否がかかっているだろう。
過去、国が約束した(分配)政策を覆す朝令暮改が度々あり、農民の生産意欲を低下させてきた。また肥料、農機械、燃料などの農業資材の慢性的な不足は生産性向上の障害となっている。どちらも重要な課題である。
重要なのは、それでも新しい農業政策によって、農場に変化の兆しが見える点だ。農民たちは不安の中でも、希望と期待を持って新しい政策の行方を注視している。持続可能な農業発展モデルとして定着するか、注目していきたい。
