◆「兵士がたくさん死んだから講演したのか」との反応も
講演に動員された住民らはどのように受け止めたのだろうか?
協力者は、「外部情報を耳にする機会が滅多にないため、皆、熱心に聞いていた。金正恩元帥様の卓越した領導によって、我が国が重要な役割を担っていると感心する人もいた」と話す。
一方で、「『我が軍の兵士がたくさん死んだから、参戦理由を説明するために講演したのではないか』と知人同士でこっそりと話している人もいた」とも述べた。
◆露派兵は公表も、大量の戦死傷者発生はひた隠し
韓国の情報機関、国家情報院(国情院)は、北朝鮮はこれまで2回に渡り約1万5千人をロシアに派兵、死者約600人を含む約4700人の死傷者が出たと推定している。
北朝鮮当局は、これまで派兵に関して沈黙を貫いてきたが、4月28日、官営メディアを通じて参戦を明らかにした。労働新聞は、昨年6月に朝露間で締結された「包括的戦略パートナーシップ条約」に基づいて、金正恩氏が「わが武力の参戦を決定」したと報じた。
また、金正恩氏の「正義のために戦った彼らは皆英雄であり、祖国の名誉の代表者である」「参戦勇士たちの家族を特別に優遇するための重要な国家的措置を講じるべきである」という発言も伝えている。
◆「情勢講演」の目的は何か?
北朝鮮政権は今後、派遣兵士に死傷者が出たことを一程程度公表するだろう。今回の「情勢講演」の目的は、自国防衛のためではなく、他地域の戦争に加担して犠牲者が出たことを正当化するためと推測できる。さらに、米国と韓国、日本との関係改善ではなく、ロシアとの密着を続けるという対外路線を、国内で宣伝することも狙いだったはずだ。
なお、アジアプレスは現時点で、同内容の「情勢講演」が他地域や他組織で行われたという情報には接していない。だが、内容は特定の地域、特定の住民を対象としたものとは考えにくく、広範に一斉に行われた可能性があると見ている。
※アジアプレスでは、中国の携帯電話を北朝鮮に搬入して連絡を取り合っている。
