塹壕の入り口は、直角に曲がってから奥に向かうようになっている構造も少なくない。小型の自爆ドローンだと入り口に入りこんで爆発することがあるという。(2024年4 月・撮影:玉本英子)

◆絶えぬ犠牲のなかで

玉本:あなたの部隊で負傷したり、戦死した仲間はいましたか?

ミハイロ曹長:

「もちろんです。多くの仲間を失いました。兵士という職業には死がつきものですが、それにしても多すぎる数です。ある日、別の部隊とともにクラスノポール(誘導砲弾)の作業をしていました。自走式砲塔から発射できるので、固定砲と違って位置を特定されるリスクは低いと思っていました。ところが、そこを攻撃された。この時は現場指揮官も含め、たくさんの死傷者がでました。これから家庭を持つはずだった若い兵士たちの死はあまりにも悲しく、つらいです」

D-20榴弾砲は旧ソ連時代に開発されたものだが、ウクライナ軍とロシア軍の双方でいまも現役で使われている。152mm砲弾で射程は約17キロ。(2024年4 月・撮影:玉本英子)
砲弾を発射すると、周囲の土や草木をえぐり、焦げ跡も残る。偵察ドローンは、こうした発射痕跡からも位置を特定するという。(2024年5 月・第56独立自動車化歩兵旅団・公表写真)

玉本:ロシア側は「ウクライナ軍は民間人を砲撃している」と主張しています。あなたの部隊は民間人がいる地区を狙うことはありますか?

ミハイロ曹長:

「最初の半年はドネツク近郊での任務でした。ドネツクは人口密度が高く、民間人が多いため、標的を確認しても、攻撃を禁じられたことがありました。ただしロシア軍拠点に向けて、大砲やMLRS(多連装ロケットシステム)を使う場合、それは超精密兵器ではないという現実も認識しなければなりません。

ロシア軍は目標破壊のためなら、その周辺にまで一斉砲撃を加えるのをいとわないでしょうが、私たちには民間人を巻き込むことはできませんし、なによりそんな砲弾の余裕などありません。その上、こちらは国際的な戦争法などルールに縛られています。ロシア兵と直接接触する交戦地帯では、すでに住人は退避しています。ですから敵が潜伏する集合住宅を攻撃することはあります。もし民間人の被害があったとしても、それはごく例外的です」

NATO規格の155mm砲弾ケース。製造番号は調達経路を特定されるので見せないよう言われボカシ処理。英語表記だった。以前はここに155mm砲があったようだ。(2024年4 月・撮影:玉本英子)

◆この戦争とウクライナのゆくえ

玉本:欧米をはじめとした西側諸国の援助がなければ、どうなると考えていますか?

ミハイロ曹長:

「ウクライナの領土とそれを支持する国民に対する徹底的な破壊と抹殺が始まるでしょう。ロシアによる力ずくの破壊です。彼らは、ウクライナ人がこれほど抵抗し、その結果、屈辱を受けるとは予期していなかった。すぐに制圧できると思っていたウクライナの戦場で、彼らは恥をかかされた。ゆえに、彼らがこの地域を制圧すれば、自身が受けた屈辱への復讐が始まります。それも残忍なかたちで。

世界第2位の軍事力を有するロシアに、こんな状況になるまでずっと目をつぶっていた我々も自分自身を振り返らねばなりません」

チャシウ・ヤルが陥落すれば、次は、コスタンチニウカにロシア軍が迫ることになる。(地図作成・アジアプレス)

玉本:いま、国民のあいだには、占領された領土をすべて取り戻すという声もあれば、ロシアと交渉して停戦合意すべきという意見もあります。また、軍への強制兵務動員問題や政府の汚職スキャンダルなど、社会が揺れています。この戦争とウクライナのゆくえはどうなるのでしょう。

ミハイロ曹長:

「個人的には、社会にも政府に対しても、多くの疑問を持っています。私が望む国民の団結は、今のところ到来していません。どうすれば国民が一致団結できるのか、互いに信頼を取り戻せるのか、私にはわかりません。汚職の蔓延はひどいものです。

木陰に座る砲兵たち。のんびりしているように見えるが、遠くで砲撃音がずっと響いていた。(2024年4 月・撮影:玉本英子)
この日のお昼は、食パンに缶詰の魚をのせ、かきこんでいた。(2024年4 月・撮影:玉本英子)

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