「ドローンが戦場を変えました。新しい技術を駆使した、新しい戦争です。子どもと遊ぶために作られた、おもちゃのようなドローンでさえ、敵を翻弄し、苦しめ、追い詰めるんです」

職人の作業工房のような部屋では、別の兵士が工具を手に、機体を黙々と組み立てていた。ネジで組み合わせた小さな金属シャーシとメカ機構は、ミニ四駆にさえ見える。わきに置かれたテスト弾頭が、これが「兵器」なのだと気づかせる。

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ひとまわり大きい機体。大型の爆薬を搭載できる。(2024年4月・リマン・撮影:玉本英子)
むき出しの金属シャーシとメカ機構が、ミニ四駆にも見える。狭い部屋に完成品が山積みされていた。(2024年4月・リマン・撮影:玉本英子)
この部屋で製造、調整した完成品は、前線の各隊に送り出される。(2024年4月・リマン・撮影:玉本英子)

おもちゃや家電からの転用部品に、ソ連時代の弾頭を改造して取り付ける。約50センチの機体で、1.5キロの爆弾を搭載できるという。

「大砲の砲弾なら1発で何千ドルもします。でも、この小さなドローンは数百ドル。十分の一の価格ながら、命中率は格段に高い」

これまで、T-90戦車、BMP戦闘車、TOS多連装ロケット装軌車などを攻撃して、成果を上げたという。

ダイバー班長は話す。

「侵攻で、私も、そして家族の人生もひっくり返りました。このドローンで戦局を打開し、すべてをひっくりかえし、勝利を勝ち取りたい」

ロシア兵を乗せた装輪装甲車に向けて、爆薬を搭載したドローンが突っ込んでいく。(第21独立機械化旅団撮影映像)

◆故郷占領された怒りをドローンに託し

彼は現場でのドローン運用の手順を説明してくれた。攻撃では、適当に空を飛び回って、敵を見つけたら突っ込むようなことはしない。

偵察ドローンや地上部隊からの情報を総合して、攻撃目標の位置と対象の形状を確認する。標的は戦車、装甲車、塹壕の兵士などさまざまだが、戦車であればその装甲の強度に応じて、どの弾薬を搭載するかが決められる。選定した標的を上空から確認したら、敵兵に猶予を与えることなく一気に突っ込む。

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ドローン前部のカメラ映像が無線でゴーグル内のモニターに映しだされる。それをもとに操作し、標的に向けて突っ込む。(2024年4月・リマン・撮影:玉本英子)
ラジコンやゲームコントローラーのよう。これで機体を自在に操る。(2024年4月・リマン・撮影:玉本英子)

雨や霧だと極端に視界が悪くなり、命中率は下がる。さらに夜間は、民生品を改造したドローンでは限界がある。ウクライナ軍側の暗視カメラは不足していて、ロシア軍はドローンの動きが鈍る夜に前進してくるという。

オペレーターのシャマンカさんと、林の中に入った。彼女はゴーグルを装着し、手元のコントローラーのスイッチを入れた。ウィーンとプロペラが回転し、機体がすっと浮上した。木々の上を高速で上下左右に飛びまわり、撮影しようとカメラを向けても追いつけない。

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小型タイプの機体ながら上部に大型バッテリー、下部に爆弾を搭載しても高速で飛ぶ。すっと木立の中に消えては、突如姿を現す。(2024年4月・リマン・撮影:玉本英子)

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